彼が誰なのか、どこから来たのか、あんな場所で何故倒れていたのか。
そんなもの一つも分からない。聞いても答えてはくれないし、答えたくないというよりは答えられないというほうが正しい気もする。



「これ、食べられる?」
「...」


「ハオくんは誰で、どこから来て、何をしてたんだろうねえ...」
「...」
「もしかして殺人鬼かな?それとも」
「...」
「でもそんなこと、どうでもいっか。だって悪い人でもいい人でもハオくんはハオくんだもんね」

そう笑って見せれば、どこか安心したように息を吐く。

「でもきっと、急に消えちゃうんだろうな...」
「?」
「なんかそんな感じがするの。死を悟った猫みたいに、飼い主から離れて二度と戻って来ない」
「...」
「嫌だなあ...ハオくんがいなくなるの」
「っ....」

何かを言おうとしたのか、ヒュッと空回りした息の音だけが聞こえてきた。


「言葉って、大切だよね」
「...」
「伝わるって、凄いことだよね」
「....っ、ぁ」
「"ある"ことの幸せってさ。無くしてから気付くって言うでしょ?それすら分かってるのに、なんで人って」



「私ね、触れた人の心が読めるの」
「?!」
「昔は凄く嫌だった。みんな言ってることと思ってることが、全く別だったから。なんで嘘つくの?って。考えれば考えるほど、人が苦手になっていったんだ」
「...」
「でも、ある時思ったの。嘘つくことってそんなに悪いことなのかなって。必要な嘘もあるんじゃないのかなって」





















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