目の前を行き交う人々を横目に、槙島は静かにその場所に佇んでいた。僅かに感じる雨の冷たさで、自分は生きていると確信を得た。下を向いて、手を握っては開く、という動作を繰り返してみる。不思議なことに身体は何事もなかったかのように機能していた。
数分前、槙島は確かに頭を撃ち抜かれた。狡噛慎也という、人間による殺意によって。それなのにどうしたことか。目の前に広がっていた美しい自然の風景など何処にもなく、あるのは鬱陶しいほどの眩しい光と人混みだった。

自分は死んでいなかった?あの出来事が数分前というのは錯覚で、辛うじて生きていたものの、昏睡状態になり何処かの施設で何年も眠ったままだった?いや、そんなはずはない。



「さて...どうしたものか」

小さく呟いてみるものの、答えは当然の如く返ってはこない。仕方なくコートのポケットを探ってみると、一つの端末が出てきた。チェ・グソンの端末だ。電源を入れようとボタンを押すも画面は真っ暗なまま。期待はしていなかったが、僅かに落胆している自分に内心驚いていた。

「ここでも僕は気づいて貰えないのか」








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