サラブレッド 1


それはトランクスに悟天という友達が出来て暫く経ったある日の事。

「うわぁぁああああん!!」
トランクスの泣き声が建物内に響き渡った。
重力室でトレーニングをしていたベジータは息子の乱れた気に気付き修行を中断し、
母親と一緒に台所でおやつのクッキーを焼いていたブルマは危うくオーブンの鉄板をひっくり返しそうになった。
ゆ、揺れている……建物が。
「な、何なの!?」
「トランクスちゃんが泣いてるみたいねぇ〜」
「そんなことわかってるわよ!」
相変わらずマイペースな物言いをする母親に調理を任せ、ブルマは鳴き声の発生源ーートランクスの部屋ーーへと急いだ。

トランクスの部屋に着くとそこには既にベジータの姿があった。
「どうしたの?何があったの?」
「わからん」
とりあえず泣き止むように言ったんだが…と渋い顔をするベジータだったがあまり効果は無かったらしい。
建物の揺れは収まっているがトランクスはまだ泣き続けている。
「ほらほらトランクス、いらっしゃい。どうしたの?」
泣き喚く我が子を抱き上げ、よしよしと宥めながら問題の原因となるものが何なのか、探りを入れるべく彼に問いかけた。
しかし当の本人は泣き止むどころかブルマの手から逃れようと必死にもがき更なる大声を出し始めた。
「はなしてぇぇ〜!!!」
「キャッ」
子供とはいえトランクスはサイヤ人とのハーフ。
振り上げられた拳が自分の顎を打ったと同時に強烈な刺激が頭にまで達した。と、ブルマは感じた。
あまりの衝撃にどさりと我が子を床に落としてしまう。
「ごめんっトランクス。だいじょ…ぶ?」
こんな時でも自身よりもトランクスの身を案じてしまうのは、やはり母親だからだろうか?
薄れゆく意識の中でブルマはそう思わずにはいられなかった。

ブルマが意識を取り戻したのは、その日の夜遅く、普段ならそろそろ寝ようかなと布団に潜り込むような時間帯だった。
ブルマの傍には椅子に腰掛けるベジータがいた。
気を失う前に見た戦闘服の彼ではなく、一日の汚れを洗い流し、小綺麗な私服を身に纏った彼はあの後ずっと彼女の傍で付き添っていたらしい。
「気が付いたか」
「うん…。」
心配そうに彼女を覗き込む彼に頷き、ふふっと笑いを漏らした。
「何だ」
「別に。いつもとは立場が逆だな〜ってちょっと可笑しくなっただけ」
「…。」
少しだけ頬を染めてベジータは彼女から視線を逸らした。
「アンタもこれで少しは私の気持ちがわかったんじゃない?」
「ほざけ。まあ何にしろ元気そうで何よりだ」
「まだちょっと顎が痛いけどね…。」
「…。」
顎が痛くてもよく回る舌だとベジータは呆れたように溜息を吐いた。
しかしはっと何かに気付いたように持っていたものに視線を落とした。
「一応…原因はわかった。」
「原因?」
何の?と聞き返すブルマにベジータは更に呆れる思いだった。
「トランクスだ。泣いていただろう。忘れたのか?」
「ああ…ごめん、忘れてたかも」
「……。まあいい。それで泣いていた原因だが…」
ベジータは、ブルマの母親がトランクスから聞き出した話を、彼女から聞いた通りに余すことなく説明した。



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