chapter:Idiot~名前 「仕方ないから、食いモンだけでももらって行ってやるよ」 思い切り泣きまくったその後。 オレは腕で乱暴に涙を拭うと、ツンケンした態度を取りながらも、追いかけてくる兵士たちから逃がしてくれた男にそう言った。 『ありがとう』なんて言えない。 言えるわけがないだろう? なにせオレは泣きまくった後なんだ。 礼を言うなんて、恥ずかしすぎる!! 「もらってくれて嬉しいよ、ありがとう」 ……コイツ、天然か? 天然なのか? 『ありがとう』なんてセリフは、本来ならオレが言うべきところだろう? なんで逆に礼を言うのだろうか。 意味がわからん! 「食べ物なら、盗まなくてもあげるから、いつでもおいで」 「......ん」 いろいろツッコミどころはあるものの、やっぱり『ありがとう』は、恥ずかしくて言えないから、代わりにコクンとうなずいた。 「俺はヘサーム」 静かになった空間で、男が言ったそれは名前だっていうことは、すぐにわかった。 だからオレは、右手人差し指をズイッとヘサームに向けた。 だって、こいつ、正真正銘の阿呆だ。 「……おまえ、ほんっとに馬鹿だな!!」 ヘサームは、オレが何を言っているのかわからないという顔をしている。 |