アラビアン・ナイト
第三話





chapter:Idiot~名前







「仕方ないから、食いモンだけでももらって行ってやるよ」


思い切り泣きまくったその後。

オレは腕で乱暴に涙を拭うと、ツンケンした態度を取りながらも、追いかけてくる兵士たちから逃がしてくれた男にそう言った。


『ありがとう』なんて言えない。

言えるわけがないだろう?

なにせオレは泣きまくった後なんだ。

礼を言うなんて、恥ずかしすぎる!!


「もらってくれて嬉しいよ、ありがとう」


……コイツ、天然か?

天然なのか?


『ありがとう』なんてセリフは、本来ならオレが言うべきところだろう?

なんで逆に礼を言うのだろうか。


意味がわからん!


「食べ物なら、盗まなくてもあげるから、いつでもおいで」


「......ん」

いろいろツッコミどころはあるものの、やっぱり『ありがとう』は、恥ずかしくて言えないから、代わりにコクンとうなずいた。



「俺はヘサーム」

静かになった空間で、男が言ったそれは名前だっていうことは、すぐにわかった。

だからオレは、右手人差し指をズイッとヘサームに向けた。



だって、こいつ、正真正銘の阿呆だ。

「……おまえ、ほんっとに馬鹿だな!!」



ヘサームは、オレが何を言っているのかわからないという顔をしている。



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