chapter:Sell~人買い ――宮殿がある街から東に向かい、小道を進んでいくと、赤土色をした地面は少しずつ、黄土色へと変化していく……。 サンダルを買う金もないオレの素足は、水分を含まないカラカラに乾ききった砂の中に埋もれるようになった。 それは、もう間もなくしてスラム街に着くというシルシだ。 砂漠に囲まれているこの国は、亜熱帯地域で、しかも雨が少ない土地だ。 そのため、水は常に不足している。 宮殿がある街には水路があるものの、ケチな奴らはオレたち、スラム街の住人に水を分け与えるつもりがないらしい。 父さんが命を落としたのは、宮殿がある、あの街へ、水路を引く仕事をしていたからだ。 奴らは、一生懸命水路を作っている父さんたちを踏み台にして、飢(う)えも知らずにのうのうと生きている。 必要な時だけオレたちを使って安い賃金でコキ使い、それ以外は虫けらのごとくスラム街の住人を毛嫌いする。 宮殿に住んでいる王も――。 王に仕えている兵士たちも――。 だいっきらいだ!! 大嫌いな奴らのことを考えただけで、さっきまであった穏やかな気持ちは、少しずつ、確実に消えていく。 そして、オレの頭から、ヘサームのことがすっかり消え去った頃――。 気がつけば、オレは家にたどり着いていた。 家といっても、立派なソファーがあったりとか、応接間があったりだとかはしない。 |