chapter:プロローグ 闇が広がる中、ぽっかりと浮かぶ満ちた月の光だけが彼を照らす。 ほうっと息を吐けば、白い吐息が大気に溶け、消えていく……。 今夜はずっと冷える。 白 弓月(つくも ゆづき)は、縁側に座し、静かに月を眺めていた。 過去、この世を去ったのも、季節は違えど、月が綺麗なこんな夜だったかもしれないと、弓月は思い返す。 それは過去。彼は陰陽師の家で、第二子として生まれた。 前世の名は紗霧 朔夜(さぎり さくや)。 生まれ持った霊力は恐ろしく強く、それ故に鬼に魂を狙われ続けた。その自分を助けてくれたのが、兄である木乃葉(このは)だった。 木乃葉は凛々しく、何者にも屈しない強い霊力を持っていた。 どんな時でも自分の元に駆けつけ、襲い来る鬼から守ってくれる、頼りになる存在だった。 だから朔夜は木乃葉に慕情を抱いた。 いや、違う。 それが愛だと勘違いをして、兄を束縛してしまったのだ。 木乃葉に対する想いは依存(いそん)で、けっして愛ではなかった。 それを知ったのは、朔夜の肉体が鬼によって失われ、霊体の身となった後のこと――。 木乃葉に依存するあまり、この世を去るに去れなかった当初。 朔夜の前に、木乃葉の運命の伴侶が現れた。 木乃葉の伴侶は、自分の身を犠牲にしてまで、ただ純粋に木乃葉の幸せを願っていた。 もし仮に、自分が木乃葉の伴侶だったとして、同じことが出来るだろうか。 |