chapter:動き出す闇V V バスに乗ること約四十分。男に案内されるがまま下りた先は人通りの少ない、閑散とした工場地帯だった。 錆び付いた匂いが漂うのは工場地帯だからだろうか。 進めば進むほど、邪気は濃くなっている。 これはこの男の母親に取り憑いた悪魔の仕業なのか。 しかし、ノアは男の言葉をにわかに信じられなくなっていた。 それというのも、バス停から下りて未だに歩き続けて十五分ほどになるが、閑散とした路地はまだ続いているからだ。 その場のほとんどが荒れ果てた一軒家が建ち並んでいるばかりで、人が住んでいるようには見えない。 すさんだ景色が広がるばかりだ。 「こちらでございます」 ようやく男は立ち止まり、示した先は、唯一この場所で人が住めそうな二階建ての洋館だった。 立派な門構えに獅子の蝶番が目に入る。 レトロな外灯に年代を思わせる屋敷の造りだった。 たしかに、コレクターならばこういった歴史を感じる建物に住みたがるかもしれない。 ノアは依然として警戒を怠らないまま、案内されるがままに足を踏み入れた。 両手扉を開ければすぐに黒のカーペットがある玄関ホールが見えた。イジドアの屋敷と同じような造りだが、花はない。それにやはり、生活感がない。 玄関ホールと階段なんかは赤で統一され、やや華やかすぎるイメージはあるものの、イジドアの屋敷の方が、住み心地が良いと思ってしまう。 玄関ホールから長い階段を上り、案内された先は二階の寝室だ。 三つに連なっている窓には分厚いカーテンが覆っている。 そのすぐ目の前でシングルベッドで静かに眠っている老婆が眠っていた。 しかし、彼女から漂ってくる気配は人間のものではなかった。 警戒をいっそう強めたノアが老婆に近づく。 するとおぞましい瘴気(しょうき)に塗れた人の形をしたそれが、ゆっくり起き上がった。 この瘴気はとても強力だ。人間が悪魔に取り憑かれた程度のものではない。 まさか! ノアがそう思った時にはもう遅い。灰色のドレスに身を包んだ老婆の姿がぶれる。 老婆は漆黒のローブをまとった姿に変わった。 フードの中の顔は見えない。まるで死神のような姿をした悪魔だ。 それは人間に取り憑いた悪魔ではなく、正真正銘の悪魔だった。 しかも、第二形態などという生易しいものではない。これは最終形態の悪魔だ。 ノアの不安は見事的中していたことを彼は知る。 この場所は悪魔の巣窟と化していた。 |