chapter:◇もうどないしよ。◇ ◆ 「槇、朝やで〜。槇〜」 午前八時と少し前。俺、保村 龍也(ほむら りゅうや)は、昨日恋人になったばっかりの槙 宙太(まき そらた)の家にいつものごとく槙を起こしにやって来た。 槙は大きな目を閉じて相変わらず気持ちよさそうに寝とるわ。薄く開いとる唇も可愛らしい。 「槙、お〜い」 ……あかん。何回呼んでも起きへん。ものごっつい気持ちよさそうに寝とるわ。 寝かしてやりたいのは山々なんやけどな。遅刻するとまた先生が煩(うるさ)いんやわ。 「槙〜、キスするで〜」 「!!」 恥ずかしい言うて昨日拒まれたキスのことを思い出し、言ってみると案の定、あんなに深い眠りやった筈の槙が勢いよくベッドから起きた。 おかげで胸元に止まっていたボタンが外れて日焼け知らずの白い肌が丸見えや。 寝ぼけ眼やし、頭のてっぺんにあほ毛が立ってて可愛ええ。 朝っぱらからええもん見られて嬉しいわ。 ……せやけどなんや複雑やな。俺とのキスがそこまで嫌なんやろか。起きてくれて嬉しいけど、それはそれで辛いもんがある。 「おはようさん」 懲りずに朝の挨拶をしてみると、槙は赤い唇を噛みしめた。顔を俯ける。 「っつ! オレ、またっ!!」 「槇?」 どないしたんやろう。心配になって覗き込めば、槙の顔は林檎(りんご)みたいに赤い。 「やっ! 見んなっ!! 恥ずかしいやろっ!! せやから今日こそは早う起きよう思っとったのに! こんな寝間着姿やし!! もうっ!!」 槙は俺からそっぽを向きながら、剥き出しになっている胸元をたぐり寄せて両腕で身体を隠した。 「…………」 なんですか、その可愛らしい反応。 俺、もうどないしたらええんやろ。大切にしたいのに槙が可愛すぎて今後がものごっつい心配になってきたわ。 キスもまだやのに、大丈夫やろか俺。 ◇もう、どないしよ。**END◇ ―第二話・完― |