◇ 「ひま、離さないか先生が困っているだろう」 「や〜、せんせいは、ひまとあそぶの〜」 「聞き分けがない子には、今日はおやつ抜きだぞ?」 「おやついらない、せんせいとあそぶもん〜」 「あ、あの……」 「むぅ〜」 ふっくらとしたほっぺたをより膨らませ、威嚇するひまちゃん。 「ぐるるるっ」 唸り声を上げて、ひまちゃんと同じ目線でにらみ合う。 荘真さんと恋人という関係になって初めての訪問。 心躍らせ、お邪魔したのはいいんだけれど……。 まさか、こんなことになるなんて思ってもみなかった。 「先生は俺の恋人だぞ?」 いやいや、荘真さん。子供にそんなことを言ってもしょうがないし。 ――というか、同性愛って認められていないのに、打ち明けていいの? 聞いている僕の方がびっくりしてしまう。 いつも整然としている荘真さんからは想像ができないほど、ひまちゃんと対峙している彼の姿に驚きを隠せない。 なんだろう、すごく可愛い。 年下の僕がそう思うのは、いけないことだろうか。 「しってるもんっ! せんせは、ひまのパパになるんだっ! だからいいのっ!!」 ひまちゃんは理解しているのかしていないのか。 コクコクと何度も大きくうなずいている。 ――えっ? 僕、ひまちゃんのパパになるの? いつから!? にらみ合うふたりを前にして狼狽えていると……。 「せんせは、ひまのっ!!」 ガシッ。 僕の右腕が、ひまちゃんの細い腕に絡め取られ……。 ガシシッ。 「先生は俺のお嫁さんだ」 僕の左腕が荘真さんに絡め取られた。 ちょっと待って! 僕、荘真さんのお嫁さんになるのっ!? だから、いつからっ!? 僕の両腕は今、ふたりに掴まれている。 「おとうさん、パパからはなれて〜」 「いやだね。ひまが離れなさい」 「やだ〜。せんせは、ひまの〜」 「先生は俺のお嫁さんだっ」 グイッ。 「へっ? うわっ!」 「わわわっ!!」 パフン。 どうしたものかとパニックになっている僕を余所に、右腕を掴んでいた荘真さんに引っ張られ、左腕にしがみついていたひまちゃんごと、荘真さんの腕の中に入ってしまった。 「はじめからこうすればよかった」 何事かと見上げると、彼はそう言ってにやりと笑う。 ひまちゃんは納得したのか、けたけたと可愛らしい笑い声をあげている。 僕も、ひまちゃんを包みながら、荘真さんの腕の中で、身を寄せた。 荘真さんとひまちゃんがいる生活はとても楽しいんだろうな。 その時、僕は二人と過ごす生活が頭に過ぎった。 *END*