chapter:▽・w・▽つ【えっ!? ぼく食べられちゃうの!?】 こんにちは、ぼく千羽 一(ちわ いち)って言います。 泣き虫で、電柱にもぶつかるくらいドジで、得意なことっていえば、料理とか縫い物でぜんぜん男の子らしくないウジウジした奴です。 そんなぼくなだけど、とってもカッコいい彼氏さんがいます。 彼氏さんの名前は金色 奏(かないろ かなで)くん。 ぼくと同じ高校生で隣のクラスのひと。 年齢だってぼくといっしょなのに、背が高くてすらりとしている。 クセがない茶色い髪と、彫刻で造られているような象牙色の肌。 長いまつ毛とか、切れ長の目とか――まさに、王子様みたいなひとなんだ。 そんな王子様みたいな金色くんと、得意なものが家庭科しかないっていう、ダメダメなぼく。 何も接点がないのに、どうして知り合ったのかっていうと、ぼくにとってすごく苦手な数学が結びつけてくれたんだ。 ――そして、日曜日の今日。なんと、ぼくは金色くんの家があるマンションにいます。 昨日から明日まで、世間一般では三連休なんだ。 それで、金色くんのおばさんとおじさんも昨日から夫婦水入らずで温泉旅行なんだって。 苦手な料理なんかもひとりでしなくちゃいけないって言っていたから、だったらぼくがするって、申し出た。 日頃、お勉強をいろいろ教えてもらってるし、こういう時にこそ役に立たなきゃ恋人じゃないもんね。 それにそれに、大好きな金色くんと一緒にいたいもん。 大好きなひととふたりきりっていうのはとても緊張するけれど、でも嬉しい。 優しい金色くんと、今日から明日まで一緒にいられるんだ。 「さあ、入って」 5階建てのマンションの2階。204号室って書かれたプレートの、クリーム色のドアの前に立った金色くんは、ドアノブの下にある鍵穴に鍵を差し込み、回した後、にっこり笑ってドアを開けた。 「おじゃまします」 ペコっとお辞儀ひとつして、ぼくは先に玄関へと入った。 ふたり並んで歩けるくらいのまっすぐ伸びた廊下の突き当たりはリビングかな? そこまでにみっつの部屋が並んでいた。 「イチくん、こっちだよ」 木目模様の廊下を進んでリビングに近いドアのひとつを開けた金色くんは、ぼくにおいでおいでと手招きしてくれる。 「えと、おじゃまします」 ぼそっと告げて中に入ると、そこはクリーム色をベースにした六畳くらいの洋間だった。窓辺のすぐ隣には教科書やらが整頓された勉強机があって、隣にはシングルベッドがひとつ。 あと、ぼくが来るからと用意してくれたのかな? 空いている真ん中のスペースには折り畳み式の小さな机があって、ふわもこなクッションが向かい合わせにふたつ、ちょこんと置いてある。 とってもシンプルな部屋だけど、どこか優しい雰囲気がする。 やっぱり金色くんの部屋なんだなって、そう思う。 「なにか飲む? っていってもお茶とかコーヒーくらいしかないんだけれど」 「あ、ぼく。お水でいい……です」 バックン、バックン。 早鐘を打つ心臓の音と一緒に口からすべりだした言葉は、なんともぎこちない敬語だ。 |