fictionstory.27


「その為に、華憐は華憐の幸せを捨てるのか。それが、あんたの性なのか」

「そんな大したものじゃないけど。蒼にも、あるでしょう?自分の何を後にしても大切にしたいものが」

「……俺に?」

驚いて聞き返すと、華憐の方が大きな瞳を更に大きくした。

「無いの?」

「いや……そんな事、考えた事も無いというか」

「そうなんだ。じゃあきっと、これから見付けて行くんだね。それとも、もう見付けているのに気付いていないだけかもしれないね」

華憐は納得したように頷いた。

「人は皆、そういうものが無くては生きて行けないから。だから常に探し続けるの。触れ合う人や時間の中に、かけがえの無い大切なものを」

再び遠くの城の方へと目を向けて、静かな口調で語る。

「それは簡単に、一瞬にして失われてしまう事もあるけれど、それでもやっぱり大切だから求め続けるの、ずっと」

どんな思いで、華憐は受け止めたのだろう。

少女の横顔を見詰めながら、蒼はぼんやりと考えた。

あの場所で、幼い瞳には全てだっただろう世界を失って。

偽りの元に全てを無くして。

それでも自分の何と引き換えにしても守ると誓う。

それ程に求め続ける感情が自分にも訪れるなんて、それこそ夢物語だ。





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