26





目が覚めたのは薄暗い倉庫の中。


鉄の錆びた匂いと、潮の香り。鼻を掠めるモノたちが、ここは学園の外である事を教えてくれた。



「(たしか、任務中に‥‥)」



つい最近、体調を崩す回数が増えてきた棗の分の任務も自分に回してほしいとペルソナに頼んだ。その任務を終わらせていざ帰ろうとした時に、何者かに変な匂いのする薬品を嗅がされて‥‥、




「(誘拐されちゃった‥‥)」



早く学園に帰らないと、棗が怒っちゃう‥‥。最近の棗はなんだか怖い。僕が任務で遅くなる度に部屋の前で般若の顔でお出迎えしてくれて‥‥。



「(帰りたい‥‥)」





両手はアリス制御機能のついた手錠を嵌められ、磔のように壁に繋がれていた。これじゃあアリスが使えない‥‥。
恐らく、僕自身のアリスの発動条件を理解して捕まえたのだろう。これは少し厄介になった‥‥。なぜか口面は外されていて頭の上にある耳がぴくぴく動く。


取り戻した意識で辺りを見回す。



「なつめ‥‥?」


自分とは少し離れた場所。
寝間着姿の棗が倒れていた。


「‥‥?」


他にも2人。誰だがわかんないけど女の子の制服を着ている子が棗の近くに倒れていた。



「おはよう、化猫さん。」



棗達とは逆の方向から声が聞こえた。



「だれ‥‥??」


栗毛の男の人が僕に近づいてきた。
後ろには長髪にサングラスをつけた人もいる。


「俺の名前は毛利レオ、Zのメンバーだよ。」



Z‥‥。
たしか反アリス学園の組織だってペルソナから聞いた気がする‥‥。そんな人たちに僕は捕まってしまったみたい。でも学園にいたはずの棗までここにいるのって‥‥?


「化猫ってほんとガキなんですね。」


サングラスをかけたお兄さんが僕の顔をまじまじ見ながら話す。


「噂通りの容姿だな。口面をとれば猫耳が生えるのはホントらしい。」


「んっ‥‥」


毛利レオの大人な手のひらが僕の頭にあるもう一つの耳を撫でた。普段は出ていないこの耳。触られることが少ないせいか、誰かに触られるとムズムズするというかなんというか。少しだけ気持ちいかったりもする。


「へぇ‥‥。」


耳を撫でる毛利レオの手のひらに少しだけ頭を擦り付けながらその心地良さに目を細めていた。


その時、


「んくっ!」

「もしかして、舌もザラザラしてたりしてんの?」


「ゃぁっ‥‥!」



毛利レオが口の中に親指をねじ込み僕のベロをやわやわと撫でてきた。なんだか、頭がフワフワしてくる‥‥。寺にいた頃に間違えてマタタビの匂いを嗅いでしまった時みたいな、そんな感じに似てて‥‥。



「紫堂、ここだけ結界緩めろ。」

「はい。」

「んっ‥‥はぁ‥‥、」



『化猫ちゃん。俺の声、しっかり聞いてね?』



「ぁ‥‥、」




意識が黒くなった。




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