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痛い。
痛い痛い。




「レオさん!」

「‥‥ちっ!」


頭がクラクラする。


「ハァ、ハァ‥‥」




爆発の根源を見れば血塗れの凪と返り血を少し浴びレオがいた。




「てめぇ!!!」



「この、糞ガキがぁッ!!」



ガッ!!!



「秘密守りたさに!自分の鼓膜を爆発させて俺のアリスを遮断するとかなかなか肝座ってるなっ!」



レオにお腹を蹴られ、棗たちの後ろの壁まで吹っ飛ぶ。
大の大人が全力で蹴る力に胃の中の物がせり上がり、口から吐き出してしまう。




「ぅえ・・・っ!」


びちゃびちゃと口から出る汚物が埃臭い床を濡らす。

みんなが駆け寄ってきてくれた。目を薄く開けば口が動いている。けど何も聞こえない。

ぼやけて見える視界から棗と一緒に誘拐されてたのは正田さんと佐倉さんだったのが分かった。


自分の鼓膜を小さな爆破で破り、レオの聴覚に訴えかけるアリスのフェロモンを遮断した。

もしかしたら、学園に帰って治療を受けても破けてしまった鼓膜はもう再生しないかもしれない。けど、こんなところでみんなの足でまといになるくらいなら安いもの。


「凪っ・・・」


棗が泣きそうな顔をしながら体を抱きかかえて支えてくれた。握ってくれた手は冷たくて震えていた。
僕、きみにそんな顔をしてほしくてこんなに体を張ってるわけじゃないのに。泣かないで、棗。



「ッ・・・ここから、逃げる方法を考えなきゃ」


血が止まらなくどくどくと流れていく。早くみんなをここから逃がさないと。


「・・・おい、パーマ」

「 でも・・・、!」

「そんなんっ・・・!・・・!! 」


途切れ途切れに聞こえてくる声が、みんなが何かを喋っていることを教えてくれる。
血を流しすぎたせいかな?だんだん瞼が重くなってくる。


「行けっ!!」



片方は潰れてしまった鼓膜にもしっかり聞こえてきた彼の大きな声と共に、棗の手がこぼれ落ちたのが分かった。


「な、つめ・・・?」


閉じかけた目を薄く開ければ佐倉さんにおぶられて倉庫の入口付近にいる僕と、


「や、やだっ・・・!」


それは一瞬だけ、ほんと、一瞬。

さっきまで泣きそうな顔をした棗が僕達がさっきまでいた場所に1人だけ残っていた。



「はな、してっ!」

「あ、あかん!!棗に凪くんのこと頼まれてん!」

「それにそんな身体じゃあ!」


「やだ、棗っ、いっちゃだめ、やだ、おねがい・・・」


佐倉さんの背中の上で必死に暴れる。
もがいた所で怪我人の僕の力は例え相手が女の子の佐倉さんでも勝てなかった。



揺られながら何も出来ない自分にポロポロと涙が出てきた。

遠のいていく古臭い倉庫の中できっと彼は、ひとりぼっちで死ぬ気なんだと分かった。


それなのに、僕は大好きな棗を救うことができない。
あんなに僕を救ってくれたのに、なのに、


どんどん離れていく倉庫。



「さくらさん・・・ごめん、」

「・・・え?」




ぽん


「雷獣っ」



バチンッ!!!!








(天を翔ける、雷鳴の如く)



(死ぬなら君とふたりぼっちで)


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