がきはおとなしくあそんでろ

目が合うと、二人の小さな肩はビクンと跳ね上がった。

「みぃつけたぁ」

ニンマリと笑みを浮かべると、二人の幼い顔がみるみると青ざめてゆく。

「い組だったんだねえ。君たちに会えてお姉さまとっても嬉しいよお」

げへ、げへへと乙女らしからぬ笑い声が出るが、私はそんなことちっとも気にしない。
一歩、また一歩、私は二人に近づく。

「昨日の雪辱を果たしてやるぞー!!」
「やめないか!」

ゴォン!と頭を殴られたにしてはまるで鉄の鐘を鳴らしたような音が鳴った。つまりはそれほどの威力。むしろそれほどかたい私の頭というべきか。
一瞬目の前がチカッと光り、足がふらついたがなんとか私は踏みとどまった。

「この野郎……ド変態みたいな名前しやがって……」
「お前が来て早々挨拶もなしにうちの生徒に襲いかかろうとするからだ!」

ケラケラと笑い声が聞こえる。
そちらを見やるとあのうんこ事件のクソガキ2人がさぞかし愉快そうに私を指さし笑っているではないか。

「厚着先生、聞いてください。あいつらは昨日私にうんこを踏ませたんですよ!?」
「なに?それは本当か?」
「厚着先生!そいつの言うこと信じるんですか!」
「ボク達がそんなことするわけないじゃないですか!」
「と言っているが?」
「わかった。私の負けです」

絶対に私のこと信じないじゃん。クソ野郎を見る目だよこの目は。
厚着太逸とかいうクソド変態な名前しやがってこの教師。土井先生を見習えよあんなにハンサムで慈悲深いお方は早々いない。ブスはもう直せないけどせめて性格をあらためてほしい。

「なにか失礼なことを考えていたな」
「いや、そんな!あなたの顔がブサイクだという以外はまったく」
「なっ!なんだと!!?」

カッ!となって、殴りかかってくるかと身構えたが、さすが大人といったところか、咳払いひとつ。すぐに落ち着いた。
一年い組の奴らは、気づかれていないとでも思っているのか、クスクスと笑っている。

「まあ、うんこのことはいいんですよ。して、デンキチくん、サシチくんよ」
「え?」
「は?」
「……え?」

別に私も本気でこいつらをボコボコにしてやろうなんて思ってもいない。まあ私も一大人として、このクソガキちゃんに説教の一つや二つ、お見舞いしてやろうとして、昨日お互いが呼んでいた、名前を口にした。
そしたら、なんだ。ぽかんと口を開ける、二人。私はなにかまずいことを言ったかと、厚着太逸先生を見た。

「うちのクラスにそんな名前の生徒はいない」
「は!?」

バッと見覚えのありまくる二つの顔に向き直る。
将来有望そうなきれいな顔した二人が、とても、とても愉快そうに、これでもかというくらい口角を上げていた。
あ、私、やられた。

「おい、てめぇら本当の名前はなんなんだよ」
「教えませーん」
「騙される方が悪いんだ」
「こいつらぶち犯してえ」

こいつらは何かな。鉢屋くんに弟子入りでもしてんのかな。
いっそほんとに犯してやろうかと思案していると、厚着先生が咳払いをした。ついに授業へとうつるらしい。

「えー。前回は手裏剣を規則的に動く的に当てる練習をした。だが今回は、ちょうど"不規則に動く的"がいる」
「へー不規則に動く的なんて作れるんすね」
「お前だ」
「あーなるほど、人間を的にするってことか。厚着先生なかなか頭いいじゃーんって、いやいやいやいや、なぜ!!?」
「じゃあお前達、思い思いに攻撃しろ!」

はーい!!と元気な掛け声とともに、飛んできた手裏剣。
咄嗟に木に飛び移って身を潜めようとしたがケツが枝から丸出しになっていたようですぐに見つかった。
厚着の野郎、私を殺す気か!!!殺す気だな!!!
それからというもの、故意に体めがけて手裏剣を投げられたり、苦無を振り下ろされたりとそれはもう大変な目にあった。命懸けの鬼ごっこ。死ぬ気で逃げ回り、なんとか当たらずにすんだものの、死にかけた。
近頃の10歳は人を殺すことになんの躊躇いもないのか。なんとか殺されずに済んだが、酷いブーイングを受け私は泣きながら一年い組の授業を後にした。やつらは、さぞ愉快そうに「また来てねー」と言っていた。
二度と来るかと唾を吐きかけるとまた一斉に手裏剣が飛んできたが、なんとか逃げ延びた。
恐るべし一年い組。さて次は一年ろ組だ。



(ガキは大人しく遊んでろ)