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▽無題

工藤姉
大分お久しぶりな気がする


女の子はみんな、いつかきっとお姫様になる日が来るのよ。
わたしも?
ええ、勿論。だってこんなにかわいいんだもの。必ず素敵な王子様が現れるわ!
でもわたし、おうじさまいらない。
あら、どうして?
わたしにはおかあさんと、おとうさんがいるから。それだけでじゅうぶんだよ。
もー!大好きっ!!
わたしも、だいすき。
あれ、二人して仲良しだね。いいなぁ、お父さんも混ぜてよ。
お父さんったらさみしがり屋さんねぇ。
おとうさんもいっしょがいい。

同じように父にも手を伸ばせば、涙ぐんだ父に母ごと抱きしめられた。

お父さんもお母さんも、お前がそうやって笑ってくれているのが一番好きだよ。
貴女が幸せそうに笑って過ごしてくれることが、お父さんとお母さんの幸せよ。


懐かしい記憶。
もう2度とは戻らない過去。
おいていかないで。と言うことが出来なかったのは、私の罪だろうか。
あの時、今の記憶のように二人に腕を伸ばしていたら、二人は今も手の届く場所であの日々のように笑いかけてくれただろうか。
過去を振り返って何かを思ったところで全ては手遅れで、この手が再び二人に届く事も無ければ、あの優しい手が伸ばされることもない。
それでも私は再び同じ事が起きても言えないのだろう。
私には、二人の愛をただ見る事しかできない。
きっとあれが二人にとって最後の幸せの瞬間。
命を終わらせることで、愛する人の手で、愛する人をその手で、互いに終わらせる事だけが、当時の二人の愛だから。
カレンダーの日付は二人の命日を示していた。
考えても仕方のない事を考えてしまったのは、今日がその日だからだろうか。
あの日、私は二人と共に自分を手放した。
二人が居るから私という存在は成り立っていたのに、その二人が居なくなると言うのなら、私も要らない。
私は私への興味を無くし、他人への興味も失った。要らないものは捨ててしまえばいい。
普段はそんなことすら考えないのに、こうして振り返ってしまうのは二人の言葉を思い出してしまったからだろう。
二人の幸せの言葉を。
鏡に映る私の顔は表情を失っていて、それは二人がのぞんだ物とはかけ離れていた。

「おや、笑顔の練習ですか?」

指先で口角を押し上げてみると、同じ鏡に映ったのは昴さんだった。
口元は緩く弧を描いていて、誰が見てもわかる微笑み。
彼はこの姿でいる時はよく微笑んでいる。
私も私ではない誰かになれば、笑えるのだろうか。

「少し、考え事をしていました」

彼も使うのだろうとその場を去ろうとすれば、無理をする必要はありませんよ。とすれ違い様に声を掛けられた。
私は、無理をしようとしていたのだろうか。
部屋に戻って支度を進める間、彼の言葉に首をかしげた。
確かに、指先で無理やり口角を上げただけのそれは笑顔とは程遠い。
無理に笑うことを二人は望んではいなかったことは、今の私にも分かる。
二人が望む私になる為に、やっただけなのかもしれない。
ならば彼の言う通り、無理をしてまで笑う必要は無いのだろう。

「お出かけですか?」
「はい」
「今日は有希子さんも来る日ですから、遅くならないように気をつけていってらっしゃい」
「はい、気をつけます」

今日の行き先は図書館ではないから、時間を忘れることはないだろう。
空は綺麗な青空だった。
それでもきっと雨が降る。
分かっていて傘を持っていかないのもいつもの事だった。


ーーーーーーーーーーーー

「さっきから外を気にしているけど、待ち合わせかい?」

天気が変わっていない事を確認していれば、不意に投げかけられた問い掛け。
どうやら彼はいつもと同じように姉と待ち合わせをしていると思ったのだろう。そして待ち合わせ時間に遅れている、と。
何度か外の様子を見ていればそう考えてもおかしくはないか。
大体ここで待ち合わせしてるのも事実だし。

「ううん、雨が降ってないか確認してたんだ」
「雨?」
「そう、雨」
「でも今日は天気予報じゃ晴れだって言ってたけど」
「降るよ」

必ず降る。
この日だけは、どんなに天気予報で晴れと言われていても、必ず雨が降る。

「どうしてだい?」
「涙を隠す為、かな。って意味が分からないよね。気にしないで!」

きっと今頃姉は墓参りをしているのだろう。
もうずっと、何度も見てきた。
墓石の前で雨に打たれる姉の姿を。
迎えに行くのは必ず俺の役目だったから、コナンの姿になっても俺は姉を迎えに行かなくてはならない。いや、俺が行きたいんだ。
姉を守ってくれる人が現れるまで、それは俺の役目だから。
家族だから。俺は姉ちゃんの弟だから、迎えに行く。帰るの遅くなったら心配する。家族だから心配になる。何度も姉に伝えてきた言葉。
どうして。と姉が聞き返さなくなったのは、いつからだろう。
家族だと、弟だと、そう実感してくれたからだと勝手に思っている。
上部だけじゃない、互いがそう思えるようになったからだと、少なからず俺はそう思っている。

「だから誰かを迎えに行くのかい?」

テーブルの片隅に立て掛けた傘を見た安室さんに頷いた。

「きっと必要ないだろうけど、それでも持って行きたいんだ」

頭のてっぺんからつま先まで雨に濡れた体に傘は手遅れだろうが、それでも肩を並べて歩く為には傘が必要だ。
雨が降ってきたから迎えに来た。なんて口実を使って行く為に。
当時は二本の傘を持って行ったが、コナンの体なら一本で十分だろう。

「結構降るの?」
「そうだね、びしょ濡れになるくらいには」

豪雨とまでは行かないが、傘をささなければ直ぐにびしょ濡れになるくらいは降るだろう。

「なら送って行ってあげるよ。バイトももうすぐ終わるし」
「え、でも悪いし」
「気にしないで。傘をさしても濡れることもあるし、風邪引いたら困るだろう?」

そういえば姉ちゃん、次の日は必ず体調崩してたな。

「車、濡れちゃうかもだけど大丈夫?」
「勿論」

きっと安室さんは余計な詮索はしないだろう。
見ている限り、何かを探る為に姉に近付こうとしているようには見えないし、どちらかと言うとただ姉を知りたい、近付きたいというものに近い気がする。
立場ではなく、本人の気持ちとして。
だから赤井さんとおなじように、彼も大丈夫だろう。
姉を護ってくれる存在が欲しいというのも本当だが、それと同時に誰かに姉の事を知って欲しいのかもしれない。
そしてほんの少しでもいい。凍った心を溶かして欲しかった。
自ら閉ざしたことにすら気づかない、凍りついた心。
俺たち家族も、蘭や園子でも溶かしきれない心。
誰でもいい。
姉の心の奥底に触れてほしい。
人間らしい感情を、取り戻してほしい。
初めて姉と会った時、確かに彼女は幸せそうに笑っていたんだ。
両親に挟まれて、とても嬉しそうに頬を染めながら、はじめまして新一くん。と笑って手を差し伸べる姿は今でもはっきりと覚えている。
表情が固いんじゃない。
元々無表情なんかじゃない。
元々無関心だったわけじゃない。
他と変わらない、両親に愛されて幸せそう笑う子供だったんだ。
幸せそうなのだと誰もが分かるほどの姿で笑う人だった。
自ら捨ててしまったそれを、もう一度取り戻して欲しいんだ。
取り戻したいと、そう思わせて欲しい。
誰かに愛されているのだと、愛しているのは亡くなった両親だけじゃないのだと、気づかせて欲しい。
俺たちだけじゃ、足りないから。

ーーーーーーー

コナン君の案内で来たのは、墓地だった。
濡れないように傘をさして小さな背中を追うように後をついていけば、ぴたりと止まる足。
それと同じように足を止めた数十メートル先には、雨に濡れたまま一つの墓石の前に立つ女性。
彼が姉ちゃんと呼んで慕う、彼女の姿だった。

「もう少しだけ、待ってて」

いいのかい?と彼に問えば、真っ直ぐと彼女を見据えたままそう返した横顔は、到底小学生のものには見えなかった。
本当に、不思議な子だ。

「今日は姉ちゃんの両親の命日なんだ」
「毎回彼女は雨にうたれているの?」
「うん。どんなに天気予報が晴れでも、必ず雨が降る。変って思うかもしれないけど、僕は亡くなった両親が姉ちゃんの為に降らせてるんじゃないかって思うんだ」

姉ちゃんって滅多に表情が変わることないから。
と続けた彼に確かにと頷いた。
彼女の表情が変わるのは滅多になく、偶に雰囲気が柔らかくなったり微かに口元が緩んだりする程度で、はっきりと周りが分かるほど変わることはない。

「普段は自分にすら興味がないから何かを思い出に浸ることも、考えることもないけど、でもこの瞬間だけ、沢山のことを思い出せるんだと思う」
「家族のこと、か」
「…本当は、とても幸せそうに笑う人なんだ。誰が見ても幸せそうだって分かるくらい、綺麗に笑う人なんだ」

以前流れていた番組でしか知らないが、彼女は幼い頃に両親を亡くしている。
その詳細までは明かされていないが、きっとコナン君は知っているのだろう。
彼女と共に住むあの男もまた、彼女のことを知っているのだろうか。
まるで彼女のことを分かりきっているかのように真っ直ぐな言葉で伝える姿を思い出した。

「多分、この日だけは泣けるんだ。二人がいた頃みたいや感情を取り戻したわけじゃないけど、勝手に涙が出てくるって言っていたから」

それは、何らかの感情を自覚することすら放棄しているから、勝手に溢れてくるのだと思っているのではないのだろうか。
普段の彼女を考えるとそう思えた。

「姉ちゃんは、きっと自分を捨てちゃったから。だから、自分自身に興味がない。だから他人からの感情も気づかない、気づこうとすら思わない」
「よく知っているんだね」
「知ってるよ。一番近くに居たからね」

遠い親戚だと聞いて居たが、その顔は近しい家族のものに見えた。
墓石に手を伸ばして触れる姿はまるで亡くなった両親に触れているようで、頬を濡らす水滴は果たして雨だけだろうか。
雨と共に涙も流れているのかもしれない。
きっと近しい存在である彼には、今彼女が泣いてるかどうかも分かるのだろう。
ほんの少しだけ、自分にもそれが分かる日がくるのだろうかと、そう思った。
彼のように彼女の心に寄り添えるだろうかと。
どんなに分かりづらいと言われて居ても、きっと彼は分かっているのだろう。

「ーーーーー」

ふと、彼女が何かを呟くように口元を動かすと、ゆるりとその口元が緩んだ。
そして笑うように口角を引き上げて、けれど歪な形で笑みを作った彼女の姿に、彼が小さくへたくそ。と慈しむような声音で呟いた。
まるで子供を見守る親のように優しい声は、小学生の出せるものではない。
そんなちぐはぐな彼よりも、この目は彼女に釘付けで、どうしてか、無理に作り笑いを浮かべている筈の彼女が綺麗に見えたのだ。
必死に何かに応えようと笑みを作るその姿に、惹きつけられるように視線が向いてしまう。
耐えられないのか今度は指で押し上げるように笑みの形を作る彼女を抱きしめることができるのは、その笑みを向けられている相手だけなのだろう。
きっと彼女が求めるのは、その相手だけだから。
ただ一心に、ひたむきに、純粋な思いが向けられるのは、もうこの世には居ない、彼女が何よりも愛する存在だけ。
きっと彼女の世界はその相手が居てこそ初めて成立するものなのだろう。
そのひたむきな愛に応えることのできる人は、もうこの世には居ない。
だからこそ、美しい反面、とても脆く儚く見えるのかもしれない。
その心に触れたいと、思った。
もっと彼女を知りたいと思った。
本当はどんな風に笑うのだろう。
どんな風に怒るのだろう。

「以前の彼女は、どんな人だったんだい?」
「それは安室さん自身に解いてほしい謎かな」
「つまり自力で引き出せ、ってことか」
「かもね」

どうやら彼女に一番近い存在と言う彼が許可を下したようだ。
つまり、もっと彼女に近付くことが許されたということだろう。

「君、最初はあんなに探られるの嫌がっていたのにどういう風の吹き回しだい?」
「安室さんは信用できるから」
「買いかぶりすぎかもしれないよ」
「そうかな?だったらもっと人を利用するようなやり方で探ると思うけど」
「どうやら君の方が一枚上手らしい。いいよ、君の賭けに乗ってやろうじゃないか」

きっと彼は彼女が心を取り戻せるのなら相手は誰でもいいのだろう。
彼女を傷付けようとする人以外なら。

「それじゃあ早速、傘も大きいし彼女にはこっちに入って貰おうかな」
「…早速かよ…」
「何か言ったかい?」
「ううん!じゃあお願いしていいかな。あ、でもあんまり近付くのは無しだからね!」

一つの傘に入るのに彼も無茶を言う。
大方肩は抱くなよと言いたいのだろう。

「紳士としての振る舞いを意識するよ」

たとえ頭の先から爪先まで濡れていても、同じ傘に入るの女性の肩を濡らすような真似は紳士的じゃないからね。と暗に伝えれば、ひくりとその頬が引き攣っていた。
やっぱり彼はまだまだ子供らしい。
姉離れはいつになることやら。

ーーーーーー
沖矢昴と言う名の以下略がリードしまくりだったので、たまには安室さんにも…と思ったら外側から一気に囲っていく形に(笑)
あれ、でも工藤家の皆さんから信頼されて尚且つ情報得ている沖矢さんも似たようなものか。
本人の意思はおいといて、周りから埋められていく(笑)
ーーーーーーーーー


「あ、洗濯物は取り込んでおいた方がいいわよ」
「でも今日は天気予報でも雨が降るとは…」
「ううん、この日だけは別なのよ。少なくともこっちは絶対降るから取り込んじゃいましょっ!」

そう言って笑うのは、ここの家主である工藤優作を夫に持つ元大女優の有希子さんだった。
工藤家長女の母でもある彼女は毎週末帰宅しては沖矢昴の変装のチェックと、入る事を禁止した部屋の掃除に訪れる。
言われた通りに取り込むと、テーブルには二つのマグカップが用意されていた。
それじゃあ休憩にしましょうか。といつものように腰かけた彼女の向かい側に座りながら、工藤家長女の話をするのはもう慣れたものだ。
普段と特別変わった様子もない彼女についていつも通り話そうかと口を開いて、今朝の様子を思い出した。

「ふふっ、今日はいつも違ったでしょう?」

まるでお見通しだと言わんばかりの夫人に頷けば、貴方になら話してもいいかもね。と前置きをしてから、彼女は言葉を続けた。

「今日のあの子、まるでお葬式に行くような姿だったでしょう?」
「ええ。それと出掛ける前に鏡で笑顔の練習をしているようでしたね」
「あら、そうなの?じゃあいい方に変わってきてるかもしれないわね」

きっと無理に笑おうとすることではなく、笑顔を作ろうと意識したことを言っているのだろう。
工藤家の長女は周りの感情に疎い。
そしてそれは、自分自身に興味がないところからきている。

「今日はあの子の亡くなった両親の命日でね、この日だけは必ず雨が降るの」
「毎年ですか?」
「そう、毎年。こんなこと言うのも変かもしれないけど、きっとあの子の両親が降らせてるんじゃないかって思うのよ。沢山泣けるようにって」
「ではこの日だけ、彼女は感情のままに泣けるんですね」

喜怒哀楽が薄い彼女は、果たして感情が存在するのかと思わせるほど希薄に見えるが、実際は微かではあるが雰囲気や口元が微かに緩むこともあり、感情が全く存在しないわけではない。
ただそれを彼女自身気付くこともなければ気づこうともしないだけ。
そんな彼女が泣くことができるのなら、少なからず自分の感情について気付くことができる日なのかもしれない。

「それはどうかしら。あの子ってまだだいぶ鈍いから、いつも勝手に涙が出てくるって思ってるようだから」
「本人がそう言っていたんですか?」
「そう。といっても新ちゃん、あの子の弟から聞いたんだけどね」
「有希子さんはあまりその事について本人とは話されないんですか?」
「ええ、やっぱり親っていっても形式上みたいなところがあるみたいで、私も優作も無理にお父さんお母さんって呼ばせようとは思ってなくてね、ただ、お父さんお母さんと呼ばれなくても、あの子が真っ先に頼れる大人であろってそう思っていたの。だってあの子の両親はずっとあの二人だけだから」

それに、元々私とあの子は顔見知りだったから、いきなりお母さんとは呼びにくいだろうし。と笑ってみせた有希子さんはその事で気に病む様子は少しも見受けられなかった。
きっと本人たちの中で折り合いがついているのだろう。

「でもね、元々弟がいなかったからっていうのもあるんだけど、新ちゃんだけは少し違ったみたい」

両親と兄弟では関係性は違ってくるものだろう。
自分自身、弟と妹を持つ身だからこそなんとなくわかる。

「新ちゃんだけは家族の中で一番あの子に近いっていうか、なんとなく、あの子の気持ちを汲み取れていたのよね。指摘された本人も首も傾げちゃうんだけど、その度にどうしてそう思ったのかを新ちゃんはちゃんと理解できるように真っ直ぐな言葉で伝えるの」

成る程。
確かに彼女は言葉をそのままの意味で捉える節があるから、一番手っ取り早い方法だ。

「姉弟だからわかる事もあるし、あの子も弟って意識していたから、新ちゃんだけには世話を焼くこともあったわ。まぁあの子ってああいう性格だから世話を焼かれるほうが多かったけど」
「仲の良い姉弟なんですね」
「ええ。新一は私の弟だからってあの子が言った時、思わず感動して泣いちゃったわ。ちゃんとそう思ってた。そう思えることができるんだって。そうやって思えるってことは、あの子はまだ自分自身を殺してないってことでしょう?」

あの子にはまだ、ちゃんと心があるのよ。
そう続けた有希子の顔は、子を思う母親の顔だった。

「あの子が捨ててしまったつもりの心を、誰かが溶かしてくれるのを待ってるの」
「まるで王子様を待つお姫様のようですね」
「ふふっ、だってあの子はとびきりのお姫様だもの。だから必ずその心を溶かす王子様が現れるって私はずっと思っているの」
「彼女が描く物語のようだ」
「きっと亡くなった両親がいつも語っていたからね。女の子はいつかきっとお姫様になる日が来るって。それはお姫様にしてくれる王子様が必ず現れるからだって。素敵でしょう?」

まるで絵本の物語を読み聞かせるように語ったのだろう。
幼き日の彼女は、それをどんな顔で聞いていたのだろうか。
そんな風に考えていると聞こえてきたチャイムの音、わ

「あら、どうやら帰ってきたみたいね。タオルも一緒に持って行ってあげてくれるかしら?お風呂はもう入れるようになってるから、直ぐに行くように言ってあげね」

肌触りのいいタオルを渡されて、言われるがまま玄関へと向かう。
わざわざチャイムを鳴らすということは、同行者が居るのだろう。
大方あのボウヤだろうと思いながら開けた先には、男物のジャケットを羽織る彼女と、恐らくそれを貸した男、安室透と、ボウヤがいた。
まさか彼を自らここに連れてくるとはな。
視線を向ければボウヤはごめんと言うように小さく苦笑した。

「有希子さんがお風呂の用意をしてくれて居るので、先に温まってきてください」

このままでは風邪を引くだろうとタオルを掛けながら言えば、すみません。と普段と変わらない抑揚の少ない声が答えた。
少しでも雨を吸い取るように軽くタオルで抑えるように髪を拭いてやれば、小さく笑ったような気がした。
そう感じたのは俺だけではなかったようで、彼もまた、彼女へと視線を向けていた。

「何か楽しいことでもありましたか?」

気のせいではないのかもしれないと問いかければ、僅かに首を傾げた彼女が口を開いた。

「楽しいかはわかりませんが、ただ、以前にも似たようなことがあったと思い出したので」
「…ああ、貴女が僕の髪を拭いてくれた時の事ですね」

どう言う事だと下から向けられた視線には笑顔で返しておいた。
どうやらボウヤの姉離れはまだらしい。
そして同じように、けれど探るような視線を向ける男には気づかないフリをした。

「なら尚更、僕の言いたいことは伝わると思いますが、このままでは風邪を引いてしまうので一度体を温めてからきちんと乾かしてくださいね」
「はい、ありがとうございます」

少しだけ柔らかくなった雰囲気と、微かに緩んだ口元。
彼女自身は全く気づいては居ないだろうが、無自覚にそういう表情を浮かべる事ができるのはいい事だろう。
やはり彼女は心を殺してなどいない。
ただ気づこうとしないだけだ。

ーーーーーー
はい、ここまで!
相変わらずの尻切れとんぼ。
安室さんと沖矢さんとの絡みを希望するお声を頂いたので、今回は一人ずつなんとか絡めることができました!なんとか書けてよかった…!
安室さんと沖矢さんの違いに気付いてもらえたら嬉しいなぁと。
恐らく工藤姉への理解度は沖矢さんの方が高いはず。
それを意識しながら書き分けてみました。
あんまり上手く書けないので分かりづらいんですが、沖矢さんは自然にすっと近づいていけるイメージ。
そんなに意識してないけど、自然と寄り添えていそうなやり取りをお互いできて居る。
自然な距離感で無理なく人間関係を築いていく。本当に自然。
安室さんは自分から意識して近づいて行くタイプ。
そして意識させようと頑張るタイプかなぁ。
沖矢さんという名の以下略は、無理に何かをする必要はないって思ってる。別に心を殺したわけでもなければ感情が無いわけじゃないし、分かり難いけど笑うこともあるから。
意思の疎通に関しては沖矢さんの方が一歩リードしてる。
ストレートな言葉で伝えるのにはもう慣れました。
安室さんはキザなイメージもあるせいか、やっぱり回りくどいし、含みのある言い方するから空回ってそう。
でもここぞという時は決める男だと思って居る。

でもネタにあるやつは殆ど設定ふわっとするから絶対こう!とはならないのが自由に書けていいところですね!
ネタ倉庫とつぶやきは息抜きも兼ねてます。
長くなりましたが、ネタ倉庫に投票してくださったみなさまありがとうございます!

2017/09/18(00:22)


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※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません
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