シンプル

堀川国広


青く光る月が障子を通り、審神者の部屋を照らせば、今宵も刀が欲に狂った女の毒牙にかかる。


「堀川国広、夜伽の任務に来ました」


堀川国広は、自身の現在の主……スイの部屋の前で座り、月の光を背に両の拳を床に打ち付けていた。

堀川は真っ直ぐに彼女を見つめた。風呂から上がったばかりなのか、長い髪は濡れていて、頬は少しばかり赤みを帯びている。そして、その潤った体を見せつけるように白い寝間着をだらしなく体に巻き付けていた。

豊かな谷間が、すらりとた細い腕が、今にもはち切れそうな健康的な太ももが、際どく寝間着から覗いている。まるで誘ってるようだ。……否、誘ってるのだ。この強欲な主は。

堀川は彼女を捉えながら、小さく、聞こえないよう細心の注意を払いながら本当に小さく、喉を鳴らした。

スイがこいこいと手招きをする。堀川はそれにしたがって、障子をまたぎ部屋に入り彼女の近くに来た。

彼女と目を合わす。審神者の柔らかい手が、堀川の腰に回された。堀川は、彼女の腕が届くように更に距離を縮めた。あと数センチ近づけば唇と唇がふれ合うくらいに。


「いいの? 兼さんは。堀川くんがいないと淋しいんじゃない?」


スイが口角を上げた。回された手は堀川の一物を探っている。しかし、直接一物には触れず、焦らすように下の腹を撫でた。

堀川は口元がにやけそうになるのを抑えた。くすぐったい。直接触らないのは、僕の方から動いてほしいというサイン。本当は今にも一物をしゃぶりたいくせに、瞳の奥はこんなにも欲でまみれてるくせに。

僕に、ぐちゃぐちゃに犯してほしいって、股下を濡らすほどに思ってるくせに。


「兼さんはちゃんと長曽根さん達に任せましたから。それより……」


堀川はスイの胸元から、寝間着の中に、つうと手を滑らせた。それはゆっくりと彼女の股下を目指す。彼女にしては珍しく下着を履いていた。それも通り越して、寄り道することなく彼女の中へ指を入れた。

ああ、やっぱり濡れてる。触ってないのに、下品な人。

まず中指を、そして間髪入れずに人差し指を、スイの中に入れぐちゃぐちゃとかき回した。寝間着と同じ色の下着は、すぐに愛液で濡れた。

もう、我慢の限界だった。堀川はぺろりと舌を出して主を求めた。彼女も舌を出して、堀川の舌にしゃぶりついた。

まるで獣のように。唾液が垂れることも気にせずに、お互いの舌を貪りあう。上の口が激しく求め合うにつれて、堀川の下をまさぐる指も激しくなっていった。もう、指は手のひらまでどろどろだ。

スイが堀川の舌をぢゅるぢゅると吸った。「ふっ……んっ!」と、堀川が小さく喘いだ。甘い痺れが脳内を犯す。

口を放すと、唾液がつうと伸びて、切れた。

堀川は下を弄る手を止めて呼吸を整えた。この人は、こういうキスがたまらなく上手いんだから。

頭がくらくらする。体が熱い。もう、他のことが考えられなくなってきた。

堀川は自分の服を脱ぎ始めた。


「ふふ、堀川くんは案外スケベよね」


スイはにやりと笑った。


「主さんほどじゃないですよ」

「キャハハ! それもそうね!」


スイは堀川が上半身裸になったところで彼の上に股がった。彼女も寝間着を剥ぎ取り、下着だけの姿になっている。

服の上からぽっこり膨らんでいる部分に、彼女は腰を下ろした。自分の愛液を擦り付けるかのように腰を上下に振り続ける。堀川は歯を食い縛り小さく跳ねた。もう、にやけを止めることは出来ない。


「主さんったら、はしたないですよ。そんなことしたらまた燭台切さんに叱られます」

「発情してるのは私だけじゃないでしょ? 堀川くんだってこんなに下着を濡らしてるじゃない。ホラホラ、なんでだろうねぇ?」


スイは堀川へ自身の一物を見せつけるかのように腰をゆっくり振った。確かに、堀川の服はは内側からも濡れてきている。それは堀川も十分わかっていた。


「え〜? それはあ、主さんが誘って来るからぁ……」


くすくすと笑いながら、自身も腰をゆっくり振り始めた。なんとおかしな行為なのだろう、布越しにお互いがお互いを焦らしている。どちらも我慢の限界なのに。

耐えられなかったのは堀川の方だった。んっ、と小さく唸り、股がるスイを布団に押し倒した。自分の服を脱いで、主の下着を剥ぎ取る。自身の一物は、すでに破裂しそうなくらい膨らみそそり立っていた。

断りも入れず、一気にグロテスクな一物を彼女の中に入れた。


「あははっ! 入った入った! イキナリ本番来ちゃったあ! さぁいこぉーっ!!」


入れたとたん、スイが嬉しそうに悲鳴を上げた。瞳はすでに堀川を映していない。堀川も別にそれでよかった、今はこの快感に浸るだけで精一杯なのだから。

堀川は息を荒くしながら、彼女の両足を掴み、乱暴に腰を振った。始めから激しいピストンに堀川は今にも射精しそうなくらいだった。

あさっての方向を見ながら、ただ腰を打ち付ける作業に没頭する堀川。他のことになんて構ってられなかった。舌をだらしなく出しながら動物みたく呼吸してることにも全く気にしなかった。

そんな堀川を見て興奮したのはスイだった。


「アハ! 堀川くん犬みたいっ」


激しいピストンを受けながら、スイは目をかっと見開きながら行為に没頭する堀川を凝視して笑った。


「だって、セックスっ、セックス気持ちいいから、仕方ないじゃないですか!!」


堀川は行為を止めることなく、目線だけ下げて答えた。

気持ちよすぎて他のことが考えられない。どうでもよくなってくる。そして、どうでもよくなることが、たまらなく堀川を興奮させた。

そんな堀川を見て、スイもさらに興奮する。


「兼さんの助手なのにセックス優先するなんて最低〜。助手失格よお」

「……」


堀川は、一瞬だけ、ぴたりと止まった。


「ははっ」


そして、にやりと笑ったあと、これまでで一番激しい一撃を彼女に放った。あまりに激しい一撃にスイもびくりと痙攣した。

そう、彼女の、スイの求めていたものは……。


「兼さん! 兼さんごめんねっ! 僕、兼さんの助手なのに、セックスしてるっ! 兼さん放っておいてセックスしちゃってる!」


叫びながら、堀川は一層激しく腰を打ち付けた。

ぱんぱんとお互いの肉がぶつかり合う音が、愛液がぐちゅぐちゅと泡を立てる音が、激しさゆえ荒くなる息づかいが、部屋中に響き渡っていく。もしかしたら、いや恐らく部屋の外にも響き渡っているかもしれない。

それを気にする雰囲気でもないが。

(あは! あは! 堀川くんがイッちゃった! 頭ん中セックスでバカになってるっ)


「でも、仕方ないよねっ! セックス気持ちいいから仕方ないよねっ! ただチンポ出し入れするだけでこんなに気持ちいいんだもん!」


(そうそう! 仕方ないの! こんなに気持ちがいいセックスがいけないの! だから堀川くんは全ッ然おかしくないんだよっ、もっともっとチンポズポズポしていいんだよっ!私のことも遠慮せずに、肉便器みたいにもっともっとぐっちゃぐちゃにしていいんだからね!! アハハハハハハッ!)

喘ぎながら、二人は笑った。求めているのはお互いの体。それ以上でもそれ以下でもない。ただ快楽だけを求めている、最上級の行為だった。

目の奥に写るのは、頭のなかを空っぽにして行為に浸り喘ぐ相手のみ。

それでいい。それがいい!


「どうしよう兼さん! 出ちゃう、出ちゃうよ! 主さんの中に白いザーメン出しちゃうよ!!」

堀川のピストンが更に激しくなった。所謂ラストスパートだ。スイもそれに負けじと喘いだ。甘い悲鳴を上げ、自身もゆるゆると腰を振った。

ああ、来る、波が来る。下半身から心臓に、頭の中に、ぞくぞくと何かが込み上げてくる。突き上げる度、突き上げられる度、甘い波が……!


「ん〜〜っ!!!!」


堀川はスイをきつく抱き締め、一物から精液を出した。もちろんゴムなどつけていないので、直接彼女の秘部へと精液は勢いよく流れ込んでいった。

自身の中に熱いものが射精され、スイもびくびくと痙攣して達した。下半身から一気に甘い痺れが全身を通り抜ける。痺れが取れても、今だ痙攣している下半身の疼きは残ったままだった。


「あは、主さん、主さんっ!」


堀川は余韻に浸ることなく、すぐさまスイの舌を貪り始めた。彼女も拒否することなくそれを受ける。

キスをしながら腰を動かすと、結合部から精液がたらりと外へ出てきた。


「主さんっ、もう一回しよ、もう一回っ」


息づかいの荒いまま、堀川は口から涎を滴ながら次を求めた。一物はまだ彼女の秘部に突き刺さったままである。


「堀川くん、もう下半身でしか物事考えられなくなってきてるね」

「なんでもいいっ、なんでもいいから、もっとしましょう!」


堀川は舌を出しながら満面の笑みを浮かべた。常人が見れば、目をかっと見開き笑う堀川を恐れただろう。しかし彼女は、堀川国広の今の主は違った。

彼女の求めている刀。それは下半身でしか物事を考えることの出来ない狂った刀だった。

自分と同じように。

どんどん自分と似てき始めた堀川を見て、スイはにっこりと微笑んだ。


「いいわよ。私、そういう男の子だぁい好き。キャハハッ!」





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