青の破軍

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赤い戦艦は、オルクスとかいう商会の船から庇うような形で、シャトルに近づいてきた。戦艦は商会の船に負けず劣らずのでかさで、武器もきちんとついている。シャトルとは大違いだ。

そのシャトルより数倍大きく、分厚い装甲を目の当たりにして、一応首の皮が一枚繋がった気分だった。

大急ぎでシャトルごと乗り込み、艦内に移動する。

私はここに来るの始めてだったから、とりあえずみんなについていって、メインブリッジに来た。ブリッジには既に昭弘、チャド、ダンテが座っていて、せわしなく手を動かしモニターを確認していた。

こういう時に言うのもなんなんだけど、やっぱりブリッジっていいな。このでっかいモニターとか、そこにうつる敵のMSや戦艦とか。緊張感がたまんない。


「状況は」

「後方からオルクスの船がまだついて来やがる」

「ガンガン撃って来てるぞ」


チャド、ダンテが交互に報告した。


「こっちからも撃ち返せ」


オルガは指示を出しながら、ド真ん中の艦長席に腰を下ろした。

艦長席が似合うなあオルガは。リーダーシップっていうか、人の上に立つオーラが滲み出てるっていうか。

今更だけど、オルガのこういう、鉄華団の絶対的なリーダーだって納得させるオーラはすごいと思う。

ビスケットたちも、オルガに習って次々と自分のポジションに移った。

……みんな、戦艦の使い方知ってるのかな? 阿頼耶識のおかげでなんとなーく使いこなせるとか?

ぶっちゃけ私はオペレーター業務とか、ブリッジの仕事はあんまり得意じゃない。

MSとは勝手が違うし、ブリッジのメンバーと息を合わせないといけないこととかあるし、わかっていても避けられない攻撃とか当たっちゃうと、ついイライラすることもあるし。

まあ、できないわけじゃないんだけどね。今はそんなワガママとか言ってられないだろうし。

ただ、みんなよくスムーズに動けるなあって。今までで動かしたことあるのかしら。


「おい! なんでその船がここにいる! 静止軌道で合流だったはずだ!」


シノに捕まったまま連れてこられたオッサンが、入り口で顔を出した。

ここに連れてこられるまでも抵抗したんだろう、アザが増えてる。


「これまでにお前が信用たる仕事をしたことがあったかよ? 倉庫にでもぶちこんどけ」

「許さねえぞぉぉぉぉぉ!!!」

「だあってろボォケ!!」


オッサンの悲痛な叫びがブリッジ内に響いた。それもシノの怒声でかき消されたし、最後まで叫びきる前にブリッジを追い出されてしまったけど。

オッサンと入れ替わりで、お嬢さんとアトラが来た。

二人とも戦いに慣れてないから、別の場所にいた方がいい。メインブリッジは狙われやすい場所だ。

二人に声をかけようとしたら、お嬢さんに一番近いビスケットが変わりに言ってくれた。


「クーデリアさんは危ないから奥にいてください、アトラも」


しかし、お嬢さんはビスケットの注意を聞くことなくモニターを見た。


「私はこの目で全てを見届けたいんです」


モニターの中の点が動いた。

拡大すると、まだあまり損傷していないバルバトスの姿が。


「あ、三日月がっ」

「遠距離で撃ち合ってる内は大丈夫。MSのナノラミネートアーマーは撃ち抜けない」


それも時間の問題だ。射撃が無理だと分かると敵は斬りかかってくる。しかも、数に任せていっぺんにバルバトスを襲うだろう。

ミカちゃんだってスーパーじゃないんだし、さすがに数十機の攻撃を全てかわせはしない。ていうか私も無理だろうしね。

足がむずむずしてきた。身体が、心が、戦いたいって叫んでいる。どう見たって劣勢なこの状況を私のてでひっくり返したい。ううん、そんなことどうでもいい。ただ、戦いたい。

私がぜんぶ、ぜんぶ倒したい。私がやりたい。

私を出して。準備はできてる。

私を使って!

今出なきゃ、いつ私は戦うっていうの!?


…………。


……あっ違う。いつやるのか、今でしょ!だ。(ドャァ…)

ふふん、流行りのものも詳しいのよ、私。まあこれが今でも流行ってるかは知らんけど。

難しい顔をして、艦長席に構えているオルガを見つめていると、彼と目が合った。


「アイリン!」


昨日のすがるような、申し訳なさそうな目じゃない。もう腹をくくってる。

すべて私に任せる。信じてる。そう、言っているかのような目だ。


「行ってくれるか」


行ってくれるか、ですって?

行くに決まってるじゃない!!


「いいの? ほんとに出ていって大丈夫なの?」


私が念を入れて聞くと、オルガは呆れたように笑った。


「ああ。好きなだけ暴れてこい」

「キャホーッ! ありがとうオルガ!大好き!愛してるっ!!」

「いいからさっさと行ってこいよ!」

「言われなくても行きますって!」


ユージンの苦言も全く気にならなかった。

ガンダムに乗れる。それだけで、回りも全く気にならないくらい興奮している。

私は急いで格納庫へ向かった。


……


………………


……………………


あれっ、格納庫ってどこだっけ?




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