青の破軍
7
『なぜ君がそれに乗っている!? 君はっ……知らないって、関係ないって、言ってたじゃないか!!』
「本当のことを言ったらアタシのこと殺しちゃうでしょう?」
『君が俺に言った言葉は、全て嘘だったっていうのか!』
「あれがウソに聞こえたわけ? 本当よ。体売ってたのも、酷いことされたのも、ぜんぶ、ぜんぶ本当!」
……押され過ぎてる。
相手は会話に夢中になってるから気づいてないのだろうけど、このままじゃちょっとやばいかな。
アタシは一瞬だけ、思いっきり火力を上げた。相手がぐらりと揺れる。バランスを崩した隙をついてシールドに突き刺さっている斧を払った。
「だから私はここにいるんじゃない!」
素早くシールドが装備されている方の手に、ライフルを持ってデタラメに撃った。アインさんが少しだけ距離を取った。
さて、ここからどうする。
逃げるか。……来るか?
仕掛けてきたのはアインさんだった。アインさんは斧を持ち直して、また向かってきた。
あくまで近距離か。なら、アタシもサーベルでお答えしましょう。
振り下ろされる斧に対し、アタシはサーベルを横に払った。金属で作られた斧は、高い熱を放出してるサーベルに真っ二つに切られた。
相手の武器を壊した! 見た感じ他の武器を装備していない。
だけど、そう、油断は禁物だ。体のどこかに隠してるかもしれない。その気になればMSのかったい拳だってある。
それでも、第二撃をする暇もあたえるものか。
アタシは反撃をされないよう、相手の背後に回った。そして、八の字にサーベルを動かした。
サーベルの動きに会わせて、相手の両腕が本体から離れる。
パーツの誘爆に飲まれないよう、上に逃げた。
『ああああ!?』
相手のMSを切り捨てるとき、一瞬だけ、アインさんの声が聞こえた。
「新人君が、この青い揺光とHi-νガンダムに勝てるわけないでしょう!?」
指から通信用のアンカーを出した。アンカーは、アインさんのMSにぴったりとくっつく。
「この間のことに免じて、今回は見逃してあげる! せいぜい生き残ることだね!」
それだけ言って、またアンカーを戻した。
ちらりとミカちゃんの方を見る。
ミカちゃんの相手は二機か。どっちも私が相手してきたMSと違う。MSだけじゃない、動きも全然……。
専用機ということは、指揮官クラス、いや、エースパイロットということ? 確かに、こいつらよりは骨がありそうだけど。
あああもう、アタシってなんで運ないんだろ。アタシがあの二人とやりたかった!
あっちに混ざりたいけど混ざれる雰囲気じゃないし、こっちもほっておけない。
ちくしょう、悔しいけど残りの数機で我慢するか。そう思ったとたん、敵が撤退を始めた。
アタシひとりで半数以上やっつけちゃったし、賢明な判断ではあるのかな。あと数機で負ける気はさらさらなかったし。
アインさんも、敵の一人に支えられて帰投していった。
あーあ、つまんない。逃げてる敵を倒しても面白くないしなあ。あのふたりは任せて大丈夫だろうし。私もオルガたちの所へ戻るか?
赤い戦艦へと向きを替える瞬間、ひとつの点が目に入った。
帰っていくMSの近くにある戦艦。
「……! 商会の船か……」
さっきからオルガたちにちょっかい出してたのはあいつね。
ここからじゃあライフルは遠すぎる。隣にギャラルホルンであろう青い戦艦もいるから、近づくのは無理だ。
近づいたら、あの船まで壊さなきゃいけなくなる。
ここから、あそこまで届く武器といったら……。
「フィン・ファンネルもしばらく使ってないし、さっきの報復といこうかしら」
フィン・ファンネル。
一部の人間しか使えない、遠隔操作を行う武器。
戦闘中に遠隔操作を行う、とっても高度な技術が必要になってくる。だから、ニュータイプ能力を持つものでないと使えない。
ミカちゃんたちも……阿頼耶識で使えるようになるかは微妙だ。阿頼耶識システムがファンネルに対応しているかわからない。この世界にファンネルがあるかもわからないもの。少なくとも、あっちの世界ではニュータイプに合わせてファンネルを造り、ファンネルが使える人間を造ってた。
ニュータイプではないけれど、強化手術を施したアタシなら使える。
そう、イメージするのよ。ファンネルがどう動くか、頭で描く。
ファンネルは全部で6。その全てが、あの商船を狙い撃つ。ひとつは必ずメインブリッジを撃たなければならない。
敵はいないからゆっくりで大丈夫。久しぶりだから、丁寧に、勘を取り戻していくの。
そう…………大丈夫、やれる?
「フィン・ファンネル!」
叫ぶと同時に、ファンネルがHi-νガンダムから離れた。複雑な動きをして、真っ直ぐ緑の戦艦へ向かう。
遠いから肉眼では確認できないけれど、商船だけに集中しているからわかる。ファンネルはちゃんと言うことを聞いてくれた。
ファンネルが戻ってくるころには、自分の目で商船が爆発している所が見れた。
「あっはははははっ! あははははははははははは!!」
私は笑った。
理由? ……よく、わからない。
ただ、すごく気分がよかった。気持ちが高揚していた。
何度も言うけれど、それはきっと私が兵士だからなんだ。
私が、私でいれることが、きっと、とても嬉しいんだと思う。
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