青の破軍

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それから私たちは、バルバトスがいる格納庫に行ってお弁当を配っていった。おやっさんにパーツも渡してね。


「アトラ、ブリッジの分は私が持っていくよ。さっきの話し合いのことも聞きたいし」


確か、戦艦の中には200人くらい人がいたから、全員に渡しに行くのは結構たいへんだよね。

アトラもそれをわかってるのか、少し困った顔をして「じゃあ、お願いしようかな」と遠慮ぎみに答えた。

アトラがじっと私を見つめた。


「……アイリン、休んでる? さっきまで整備のお手伝いしてたんでしょ?ちゃんと休まないとダメだよ」


ああ、そういえば、相棒の整備のことばかり考えてて自分の体のことはすっかり忘れてた。

シャワーあびてご飯食べてちょっと、30分くらいほんとにちょっとしか休憩取ってないや。


「ありがとアトラ。話聞いたらちゃんと休むよ」


敵はいつ来るかわからないから、どんなときに来ても対処できるようきちんと体調を整えることもパイロットの努めなのに。

私はアトラからでっかいお弁当入れを受け取って、ミカちゃんたちと別れた。

いくつかの部屋は重力があるけど、廊下は無重力だから、ふわふわと宙に浮きながらブリッジへ進んだ。

それにしても、場所によって重力が重かったり軽かったりするのは、体に悪影響は出ないのかな?

あっちでもそうだったけど、長生きする人は100歳よりも長生きしてるから大丈夫なのかもしれない。

でも、よぼよぼになってまで生きたくないなあ。だっておばあちゃんになったらMS動かせないもん。いや、動かせるだろうけど、激しい戦いできないだろうし。

私がおばあちゃんになるならどんな人になるんだろうか。腰が曲がって背もちっちゃくなって、髪の毛も白髪になるのかなあ。楽しみなような、やっぱり嫌なような。

なんて考えてると、廊下の角から丸い物体が漂ってきた。


「あれっ、ハロ?」


丸い物体は、私がよく知ってる水色の小生意気なロボットだった。

ハロはぱたぱたと耳(?)をばたつかせ、なされるがままに浮遊していた。ハロは私を見つけるとこっちによってきたので、空いている手で受け止めた。


「どこ行ってたのアンタ」


こっちに乗り換えてから全然見てなかったもん。まあ、ハロのことだからって心配はしてなかったけど。


『コノ瞬間ヲ待ッテイタンダ〜』


聞いちゃいない。

待ってるくらいなら、最初から一緒にいなよもう。

一応、全体をチェックしてみたけど特に壊れたとこも汚れたとこもなさそうだった。

また別れたりはぐれたりするのも大変だから、このまま一緒にブリッジへ行くことにした。ハロはくるくると回転しながら、無重力空間を漂って移動していく。なんかちょっとだけ楽しそう。


「みなさーん! 待ちに待ったお弁当の時間ですよー!」


ブリッジへいくと、いつものメンバーがわっと歓声をあげた。腹ペコで死にそうだったらしい。

私はでっかいがま口を開けて、一人づつお弁当を手渡した。


「はいチャド」

「サンキュ」

「ビスケットもお疲れ」

「お互い様にね。もうちょっとしたらオルガもここに来ると思うよ」


そういえば艦長席が空っぽだ。オルガも大変だなあ。

私は最後にお嬢さんのお着きの人にお弁当を渡した。この人、ブリッジでイサリビの管理してるけど、いつのまにブリッジクルーになったんだろう。っていうか、ブリッジの仕事できるんだ。すごいなあ。


「どうぞ。えーっと」

「フミタンと申します」

「フミタンさん、今更だけどよろしくお願いします。アイリン・レアです」


私が片手を差し出したら、フミタンさんも快く手を握ってくれた。少し冷たいけど柔らかい、大人の女性の手って感じがした。

大人の女性と握手したりするのって久しぶりだ。ここにいるの、おやっさん以外みんな子供だし、CGSのときも男ばっかりだったからな。町にも滅多に行かなかったし。


「……何か?」

「いえ、フミタンってかわいい名前ですね。メガネ取っておさげとかしたら、かわいくなるかなあって思って」

『カワイイ! カワイイ!』

「私はこのままの姿で十分ですので」


なんだ、つまんないの。そりゃ仕事中はその格好がいいと思うけど、せっかくの美人なのに勿体ないよ。

いつか、ちょっとだけでも眼鏡はずしてお洒落してくれないかなあ。絶対綺麗だよ。


「おっ、昼飯か」


後ろから声がして振り返ってみると、いつの間にか帰ってきてたオルガが立っていた。


「お疲れオルガ。いっこ1200円ね」

「金取るのかよ。しかも高えな」

「テイワズって所に案内頼むって聞いたけど」


私はお弁当を渡しながら、決まったことについて教えてもらった。

地球への案内人はどうしても必要だから、ギャラルホルンとも対抗できるくらいのでっかい後ろ楯が必要で。

それならテイワズっていう会社しかいない、ってことでテイワズの航路を使わせてもらって、できればその傘下にも入るつもりらしい。


「木星に拠点を置いてるマフィアでな。でけえし顔もきく。頼むならそこしかねえ」

「じゃあ今から木星に行くわけか。遠いなあ」


ここから木星となると、1、2ヶ月はかかるんじゃなかったっけ? 往復すると4ヶ月くらいか。

うーん、地球への旅は長いなあ。




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