青の破軍
4
正面カメラが無数の銃弾をめいっぱいに捉える。
私はアクセルを踏んでMSを大きく旋回させた。無数の銃弾は私の愛機をかすめることなく宇宙の彼方へ散っていく。まさか、敵もこれくらいで私が沈むとは思ってはいないだろう。そう思っていたら、こっちが体制を整える前に敵が接近戦をしかけてきた。
私が相手のMSを捉えたときには、すでに敵は斧を振り上げていたのだ。
頭で理解するより先に体が動いていた。降り下ろした斧を、私の愛機はすれすれでかわした。……すれすれだけど、かすっていない。
向き直るついでに、こっちも持っているビームサーベルを相手に向かって振った。不意を突けると思ったけど、敵もすれすれでこっちの攻撃を避ける。
なるほど、ちょっと甘く見ていたかも。このあいだの奴らとは段違いってことか。
いいね、燃えてくる!
「だあーーっ! 滅殺ーーッ!!」
*****
「…………!」
あれからどのくらい経過しただろう。
私たちはお互い、傷ひとつつけずに一進一退の攻防が続いていた。
(相手は対ビーム兵器を持っていないから、一太刀で十分致命傷を与えられる。しかし……)
よくまあ避けること! 一対一でここまで私の攻撃を避ける人間なんて始めてだ。
ちらりと昭弘の方を見る。あっちは満身創痍らしく、だいぶ傷が目立つ。なんとか食らい付いていっているというところか。フォローしてやりたいところだけど、そんなことしたら昭弘は拗ねるだろうなあ。
気がつくと、いつのまにか右から銃弾が迫っていた。全く、一瞬の油断もさせてくれないのね。
「…………!」
後方……? オルガたちの近くで、殺気を感じた?
敵を警戒しながら素早くチェックすると、戦艦の近くに1機、MSがいつの間にか抜けて行ったみたいだった。三日月のバルバトスが応戦している。
「イサリビにMS……。三日月を置いてて正解だったわ!」
しかし、遠目から見るだけでも敵のMSはだいぶ素早いみたいだ。バルバトスの調整が上手くいってないのもあるかもしれないけど、あの三日月が押され気味なんて。
こんなことなら私があっちに残っておくべきだった。こっちだって弱いわけじゃないけど、あっちとも戦ってみたい!
あーあ、どうして三日月ばっかり強い敵にぶつかるかな!
戦艦の方は……。
「オルガ達が取りついた! あっ」
急にガンダムがバランスを崩した。敵の攻撃をモロに食らってしまったのだ。なんとか盾で防いだからいいものを、一歩間違えたらコクピットまで穴が開いてしまうところだった。
くそっ、周りに意識が行き過ぎてる。もっと目の前の敵に集中しなければ。落ち着け。目の前の敵に、全神経を集中……!
敵の攻撃が来た。下側からの攻撃。
集中しろ。落ち着けば、相手の行動が読める。
……私がのけ反って敵の攻撃を避ける。こっちが反撃したら、相手も避ける。そして相手はまた攻撃してくる。次は……左から。
……見えた!
私が攻撃に出ると、相手が避けた。そして予想通りに左側から斧を振り回してきた。
予測できたらこっちの方が早く動ける。ガンダムに触れるギリギリのタイミングで、私は腕を振ると敵の斧は私の愛機に触れることなく、真っ二つに割れた。
……いや、まだだ!敵は一瞬油断する、その隙をまた突く!
ガンダムを大きく旋回させ、間髪入れずにビームサーベルを振った。急所ははずしたが、敵の左腕を破壊した。
「あっは! これで終わりだ!!」
動きが止まった。もう一回突けばいける。
頭にめがけて、ビームサーベルを振り下ろす。あと数瞬で敵が真っ二つになる、そのときだった。
『止まれアイリン、昭弘! テイワズと話ができるようになった! もう戦わなくていい!』
オルガの叫ぶような声が、コクピット内に響いく。ビームサーベルは敵の頭スレスレで動きを止めた。
『おい、全員聞こえているか!? 戦いは終わった!!』
「はいはい聞こえてますよ。ちえー、せっかくいい感じだったのに」
不本意だったが、私はビームサーベルの出力を落とした。
敵にも戦意はないみたいで、動きがぴたりと止まっていた。焼き切った左肩がバチバチと小さい火花を散らしている。惜しいなあ、あと少しでMSのど真ん中があんな風になるところだったのに。
「聞こえた昭弘、終わりだって」
『……ああ……、き、聞こえた……』
ぜえぜえと荒い息づかいと共に、昭弘が答えた。
「ミカちゃんも聞こえてる? ミカちゃーん?」
三日月の方は、昭弘よりも長い間をおいて、一言『聞こえているよ』と帰ってきた。仕方ないと言ったら仕方ないか。今回は二人にとっては苦しい戦いだったもんね。
最後までできなかったことは残念だったけど、全員生きてる。きっとイサリビにいるメンバーも、あっちに乗り込んだメンバーも、全員。だから、まあ、よしとするか。
「帰ろっか、イサリビに」
to be continued…….
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