01 師との出逢い


ぼんやり、と碧は飛行機から空を見上げていた。
あぁ。雲が流れているな。
他人事のようにただ、空を見上げる。
不意に、視界が真っ暗になった。
「誰だ?」
碧はため息を吐いた。こんな事をする子供は結構多いが、大抵声でわかるのに。何故、こんな事をするのか、理解出来ない。
いや、単純に楽しいのだろう。
「……この声は紫龍か?」
瞬間、視界が明るくなり、正解だと、笑う紫龍が視線に入ってくる。
「ったく……」
幼い子供のような行動。碧は呆れながらにため息を吐いた。
ズキンと、頭に痛みが走る。
その痛みに、碧は頭に触れた。
「………。も………う………」
なんと、言っているのだろう。
解らない。誰なんだ。
痛みに顔を歪ませていると、紫龍が碧の頭に触れてきた。
「……大丈夫か?」
「………あぁ。放っておけば治るだろう」
頭痛に襲われるのはいつもの事だった。
時折、幻聴も聞こえるが対して気にすることはなかった。
この頭痛で苦労など、したことはなかったから。
「なら、いいが……」
心配そうに眉根を歪める紫龍に、大丈夫だと、微笑んでやる。
偏頭痛の類だと片付けてしまえばいい。頭痛に気を揉んでいたら、自分の事に集中できないじゃないか。
「おい、紫龍。お前の修行地に着くぞ」
不意に声が降りかかる。
立ち上がった紫龍は男に言われるまま、陸に降りて行った。
すぐ近くに、五老峰が見える。
遠そうだな。
いくら近くに見えても、8歳の子供が登るのは苦労するだろう。
紫龍は、大丈夫だろうか。
親友の心配をしていると、不意に声がかかる。
「おい、ジャミールに着いたぞ」
小型の飛行機を運転しているのは、グラード財団総帥の城戸光政に仕える執事、辰巳徳丸だ。
碧が小型飛行機から降りた途端、飛行機は出発し、空へと消えていく。
碧は、目の前にある白骨死体の集まる谷間を見つめた。
「ほう、これは珍しいな」
青白い光が立ち上り、白骨が動き出す。
「聖闘士でもない人間が、ムウ様になんのようだ」
「ムウさんを師事したい。会わせては貰えないか」
怯える事もなく、息巻く碧に亡霊たちはくつくつと笑う。
「ならば、力づくで通ってみよ{emj_ip_0792}*」
「お待ちなさい」
亡霊が碧に踊りかかろうとした時、谷間に声が響く。
白い霧の中を悠然と青年が現れた。
亡霊たちは次々と、道をあけ、青年を通らせる。
なんだ、こいつ。
青年の体から滲み出る黄金のオーラに、碧は息を飲んだ。
悠然に荘厳に、黄金のオーラが立ち上り、藤色の髪の毛が揺れる。その長い髪の毛に縁取られた輪郭は色白く、深い緑色の瞳には自分が写っていた。
「なるほど、聖闘士としての素質は持っているようですね。来なさい」
ジッと、碧を見つめた、多分ムウという青年はゆっくりと歩き始めた。
碧は、よくわからないまま。ムウの後を追いかけた。

- 5 -


*前次#


ページ:



ALICE+