2017/11/27 00:24
襲い受けのやつ(書きかけ供養)
※当たり前のようにR-18


 抱かれたい。
 ぽん、と、それは風船が弾けるように。彼はそう思った。別に皿にポテトサラダを盛り付ける間にあの腕を思い出したわけでもなく、愛しくなったわけでもない。そういった思いや想像といったふわふわしたものではなく、言葉が先に出た。「抱かれたい」。何の甘さもない、ぽっと出の言葉だった。スプーンを皿に叩きつけ、ポテトサラダの塊が乗っかった瞬間だった。開けたままの窓から吹き込んだ風がカーテンを揺らした。彼の枯葉色の長髪がひらひらゆらめいた。彼は何かを見つけたかのように、じっと真正面を見つめていた。とある秋の日のことであった。
 そうと決まれば話は早い。彼は有言実行の男である。盛り付けた皿はラップをし、冷蔵庫に仕舞う。橋やスプーンも片付け、テーブルも拭く。午前にもしたが、もう一度フローリングを軽くワイパーで掃除する。ベッドのシーツをぴんと張り直し、掛け布団もばっと宙に浮かせ、空気を含ませて被せる。ベッドサイドの引き出しを開け、諸々――ローションやコンドームといった必需品――の補充も確認する。確かコンドームが少なくなっていたはず。これはまずい。彼の恋人(?)は優しい男であったから、後でお前が辛いだろうと直接はしたがらなかった。彼自身は今更どうでも良かったのだが、しばらくぶりとなると流石の彼も怖くなる。男が帰ってくる頃まで三十分はある。彼は家着にカーディガンを羽織ったラフな格好のまま、コンビニに出掛けた。
 しかし、薬の陳列された棚の下、生理用品なども近くに並ぶ中、こっそりと存在するそのコーナーの前で、彼は顔を顰めていた。数種類存在するパッケージだが、まあそれはどうでもいい。ただサイズが分からない。一体あの男のものはどれほどの大きさだったろう。最中のことを思い出そうにも、何せ最中である。実際より大きく感じるに違いない。彼は悩んだ。数人の客が横から手を伸ばし気まずそうに付近の商品を取っていった。いっそスマートフォンで連絡を取って直接尋ねてみようかとも思った。しかしもし男が職場の人と一緒にいる場面で、携帯が光り「ゴム買うんですけど、サイズどれですか」とメッセージが表示されたなら。もしその画面を職場の人に見られていたなら。お前けっこう天然だな、と言われる彼であったが、彼も流石にそれくらいの分別はつけられる男である。送信ボタンからは手を引き、ポケットにスマートフォンを仕舞った。そして想定より一回り小さいサイズを籠に入れた。大きいサイズを買って悲しまれるよりかはマシだと考えたからである。ついでに水も足りなかったと思い出し、一リットルのミネラルウォーターと酒も買い足した。涼しい顔をしてカゴを差し出し、最後にはやわらかな笑顔さえ残していった長髪の美丈夫に、店員が唖然としていたことを彼は知らない。
 帰ってくると、思ったより重い荷物と残暑で疲れたのか薄っすらと服が汗で張りついていた。男が帰ってくるまでおよそ十分しか無いが、汗臭いのは良くない。急いで服を用意し――ここで考えるのが脱がせやすさである。下はスウェットで良いにしても、彼がよく着るようなシャツはボタンが多くて手間取らせることが多かった。さっさと抱いてほしい今、彼が選んだのは腰下まで隠すようなゆったりとしたシルエットのTシャツである。これならすぐ着脱可能だ。濡れないよう髪を纏めてからシャワーを浴びている間に、インターホンが鳴ってしまった。帰ってきてしまったのである。慌てて浴室から飛び出している間に、寝ているとでも判断されたのだろう、鍵をガチャガチャと開く音がする。体をさっと拭き、用意したTシャツだけ着て、丁度靴を脱いだところだった男に彼は背伸びして飛び付いた。
「漣さん」
「お、起きてたか! どうした……って、んぅ!?」
 そして彼は男の唇を乱暴に奪った。強引に噛み付きながら、彼は慣れた手つきで素早く器用に、ぐしゃぐしゃと男の髪を乱した。ネクタイを緩めさせ上着を脱がし、シャツのボタンも外していった。男の頭が真っ白なうちに、このような見るからに不健全な状況を作り上げておくこと。彼はこの手のことに詳しかった。嫌悪感を覚えるほどの水音を立て聴覚と触覚に集中させている間、男の背中を廊下の壁に押し付け、ずるずるとしゃがみ込ませていく。銀糸を引いて唇を離した頃には、乱れた自分の有様と、その上に跨る彼の上気した姿。完璧である。彼は確信した。
「はあっ……、え、何、どうした!?」
「抱いて」
「ほ……? は? え? 今なんて? てかお前、穿いてない、え!?」
「だ、い、て」
「へー!? いやいや待てよ、え、なんか忘れたいとか!? 嫌なことあった!? 俺聞くよんんんっっ」
 うるさいとばかりに再び唇を塞いだ。呼吸の隙間から男の喘ぎや呼吸が漏れている。一方の彼はというと、無言で冷静に男の口内に舌を伸ばし、貪り続けている。そして男が酸欠からふらりと力を失った時を好機と捉え、男の後頭部に手を添えると素早く押し倒した。フローリングは掃除の甲斐もあり埃一つなく、男が吸い込んでくしゃみをする心配もない。彼はご満悦であった。一方の男は、何が起こったのかも分からないまま自分に覆いかぶさる彼を見上げていたが、唇が離れる頃にはトロンとした瞳で口許に滴った唾液を飲み込んでいた。彼はぐっと口許を腕で拭うと、もう一度男に顔を近づけて囁いた。
「いいですか。嫌なこととかないですから。それよりもさっさと抱いてください。いいですよね」
「はわわ、イケメン……」
「何言ってんですか。あなたが抱くんでしょ」
「う……そ、そうだけどさ、もうちょっとこう……あるじゃん? ご飯にする、お風呂にする〜……とか」
「僕一択ですよね。というか、わざわざ漣さんにそこまで媚びなきゃだめですか……」
 男ははっとした。出会った頃の彼といえば、男のためになんでもするような献身のきらいがあった。その行き過ぎた行動は、最早何かに取り憑かれているかのようであった。それから紆余曲折あってその程度は和らいでゆき、今ではようやく本当の意味で「彼らしい」生き方が出来るようになってきたのである。そう、彼の素は、意外と乱雑でぶっ飛んでいる。こんな風に、のそのそ家に帰ってきた男を突然襲うくらいには。そんな姿を見せられるくらい、彼も成長したのである。男の心はじんと熱くなる。そして、そんな彼自身と正面から向かい合いたいと思った。祐月、いいよ、俺もしたい……そう良い声で囁こうと、回想シーンから戻ってきた男は既に彼の手によって上半身を剥かれ、ベルトにも手を掛けられているところであった。


つづかない!ツッコミどころが満載のゆづきくん 個人的にツボなのは、LINE結局思いとどまってたけどよく読むと文章打ってもう送信するほんとに一歩手前まで来てるところです。あとれんくん お前 受けでは?(攻め)

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