青い春を抜けて


思いの外遅くなってしまった。
自分に仕事を押し付けた皇帝(あだ名である)は、教師としてどうかと思う。
おかげでモリをこんな時間まで待たせることになってしまった。
目当ての教室にたどり着き、急いで扉を開ける。
「モリ、待たせてすまな、い…寝てるのか」
自分のクラスで待っていたモリは、待ちくたびれたのか、腕を枕にして机にふせていた。静かで規則的な呼吸音から、眠っているのだとわかる。
「おい、モリ」
どうやらモリは深い眠りに落ちているらしい。
フリオニールの中に、ちょっとした悪戯心が芽生えた。
規則的な呼吸を繰り返す、薄く開かれた唇に指を這わせる。
触れたその柔らかさに、胸が高鳴った。普段そう長くは触れることなどないその感触を、指先で目一杯堪能する。ふにふにと表現するしかない、絶妙な柔らかさ。自分の乾いた唇と同じものとは到底思えない。
「モリ…」
こうして無防備な寝顔を見ていると、モリは何も知らない無垢な存在のようにも思えるが、実際はそうではない。自分の腕の中に抱かれているときは、淫魔そのものだ。本人に自覚はないだろうけれど、濡れた瞳が、紅潮した頬が、唇から漏れる愛らしい吐息が、雄の本能を刺激する。
無垢だったモリに、初めて繋がる悦びを教えたのだという自負もまた、彼の心と体を熱くした。
遂にたまらなくなったフリオニールは、モリを抱き起こしその唇にキスを落とす。寝息を奪われたことによって、ようやくモリが目を覚ました。
「ん…せんぱ、い?」
「おはよう、モリ。待たせてしまって悪かった」
「いいえ、私が待っていたかったので。気にしないでください」
寝惚け眼でふにゃりと微笑むモリ。
あぁ可愛いなぁ、と思うと同時に、フリオニールは自然と恋人の体を机の上へと押し倒していた。彼は我慢できないほど目の前の彼女に愛情を募らせ……端的に言えばムラムラしちゃったのである。
「あの、まさか」
「俺は、可愛いモリが悪いと思うんだ」
フリオニールの目は本気だった。



「大丈夫、誰も来ないさ。こんな時間に教室に来る奴なんているものか」
「でも…んっ」
モリの口から出かけた抗議の言葉を、すかさず唇を重ねて封じ込めた。ぴったりと閉じられたモリの唇を、フリオニールは啄むように食み、舌先でつついて開かせる。多少強引に僅かな隙間から舌をねじ込むと、案の定怯えたようにモリの舌は奥の方で縮こまっていた。
「モリ、舌を出して」
「は、い…」
「いい子だ」
唇を離してそう言えば、おずおずと桃色の舌が差し出される。その舌をフリオニールが自らの唇で挟みこんで、甘く噛んだり吸ったりして愛撫する。
「んっ…ん、んぅ……」
少し強めの刺激を与えてやると、モリは肢体を震わせながら子犬の鳴くような切なげな声を漏らした。
決してフリオニールは性技に長けているわけではない。女性経験もモリ一人だ。だからこそモリの弱いところを探し尽くそうとするし、それをするだけの情熱は人一倍ある。
「んくぅ……ふ、ぁ」
長い口づけから解放されたモリの瞳は、とろんと蕩けたように潤んでいた。その唇から“でも”が紡がれることはもうない。
「フリオニールせんぱ、い…」
「モリ、好きだ」
「私も、先輩が…す、好きです」
消え入りそうなほど小さな声がまた、愛しさを感じさせる。こんなに照れ屋なのに、一生懸命に想いを伝えてくれているのだと思うと。

制服のカッターを肌蹴させて、モリの透明感のある瑞々しい肌に唇を寄せた。
首筋から胸元へ、そっと唇を這わせる。
「んっ…」
「モリ、すまない…!」
「え、あっ…ひうっ」
優しくしようと思っていた。だが、できそうもない。彼は早々に理性を手放しかけていた。
ブラのホックを外すことすらもどかしく感じて、無理矢理にブラジャーを押し上げた。モリの乳房にブラが不自然に食い込み、その柔らかさを強調する形になっている。
キスだけで感じてしまったのか、既に胸の頂きは存在を主張し始めていた。
誘われるように顔を近づけて、フリオニールはふと思い止まる。
「舐めても、いいか」
「ッ…………せ、先輩の、好きなようにしてください」
そんなこと訊かないでほしい。
律儀すぎるフリオニールの対応に、モリは顔を真っ赤にさせて目の前の男から目を離した。
フリオニールは愛しい獲物がその身を自分に差し出したのを理解して、ぱくりとモリの乳頭を口に含む。
「やぁ、あっ!…ひぁっんぅ……ん、んっ」
「どうして声を抑えるんだ」
「ん、く…ひぅ!だ、だって、恥ずかし…ンッ」
こんな声を聞かれるのが恥ずかしい、と懸命に手の甲で唇を押さえて声を押し殺すモリ。それが面白くないフリオニールは許可もおりていることだし、好きにすることにした。
「俺は、モリの声が聞きたい」
「や、やめてくださ…ひうっ!」
舐めるだけに止まらず、軽く歯を立てて甘噛みをしたり、赤子がするように吸い上げてみたり。
まだ発達途上の乳房を労るように、優しく揉みしだく手つきとは対照的に、フリオニールはその桜色の頂きを捏ね回していた。
「んん、ぁ…あっや、ンッ…」
「噛まれるのと吸われるの、モリはどっちが好きだ?」
「わ、わかりませ…んあ、あぁッ」
「じゃあ、どっちもだ」
「っきゃうぅぅぅ…だ、め…だめですっそれは!」
カリ、と突起を歯と歯の間に挟まれたかと思うと、激しく吸い付かれて舐め回される。声など抑えられるはずもなかった。
「は、あっ!あくぅぅ…だめ、だめぇ…!!」
「モリが好きにしても良いと言ったんじゃないか」
「ら、らって、んくぅぅ…ひぃあッ!」
モリの抵抗を押さえつけるように、強めの愛撫を施す。きゅっ、ときつく摘んだ乳頭は、もっと触ってと言わんばかりにピンと勃ちあがっていた。
この様子だと、下はもうしとどに濡れそぼっていることだろう。
「濡れてるな」
「い、言わないで…見ないでください……ひうッ」
スカートを捲られ、ショーツ越しに割れ目をなぞられる。一部だけ色の濃くなったショーツは、モリがフリオニールの行動によって感じていることを明確に示していた。
「クリトリスも勃ってる」
「や、触っちゃだめ、いやあっ…」
ショーツ越しに肉芽を軽く押されて、モリはビクリと体を跳ねさせた。その敏感な突起だけを執拗に狙ってくるフリオニールの指から逃げようと腰を引くが、逆にがっしりと腰を押さえられて固定されてしまう。
「ここが、気持ちいいんだろう?」
「そ、んなこ…あ、あァッ!」
カリカリと布地越しに突起を引っ掻いていた指が、今度はショーツの中へと侵入した。造作もなく蜜壺を探り当てられ、フリオニールの長い指が具合を探るように、まずは一本埋め込まれる。
「相変わらずキツいな…痛いか?」
「ん…痛くは、ないです」
モリの返答に安心して、更にもう一本追加する。
男を感じさせる節張った無骨な指が、粘着質な音を立てながら抜き差しされるのに、モリは顔を赤らめた。そんな純情な反応に、フリオニールは一層手の動きを大胆にする。
もっとモリの乱れる姿が見たい、今の彼は狼だった。
「待っ…そんな、はげし…やあっ、あー!か、かき混ぜちゃらめっ、せんぱ、あひぅっ」
「ここ、だったか?」
「や、あっ…ひあ゙ぁーッ!?」
フリオニールの指が思い出したように蠢く。合わせて、電撃に打たれたようにモリの体が一際大きく震えた。中がきゅうぅぅっと指を締め付け、何かを搾るような動きをする。
「もうイったのか。今日は随分早いな」
「は、ぁっ…は、ふぅ……」
真っ赤な顔で荒い呼吸を繰り返すモリは、潤んだ瞳でフリオニールを見つめた。本人としては、反論できないので軽く睨んでいるつもりだが、彼を煽るだけでしかなかったようだ。
ショーツを取り払い、挿入のために体勢を変える。
フリオニールは手近な椅子に腰掛け、モリを自らの膝の上に乗せた。机の上では背中が痛いだろうという配慮。けれどモリにとっては、向かい合い、目の前にくる顔の方が問題だった。
「ふ、フリ、オニールせんぱ、い…」
か細く、すがる様な声。
耳元でそんな声を出されたらたまらない。
「入るぞ。しっかり掴まっていろ」
琥珀色の瞳と視線が交わった。と、間を置かずに熱い肉杭がモリに埋め込まれていく。
慣らしたはずだが、まだ完全ではなかったらしい。
「おっき、いぃ…ひ、あっあうぅぅ!」
「モリの中、すごく熱い…とけてしまいそうだ…!」
「奥当たっ…あ、あっやめてくださ、ひぃぅっ」
モリの柔らかな尻を掴み、腰を打ち付ける。早々に理性が切れていたためか、律動は最初から激しいものだった。
「せんぱ、い…せんぱいぃ…!」
「聞こえるか?モリの此所、ぐちゅぐちゅいってるぞ。やらしいな」
「や、いやぁっ!言わないでくださ、ひぃんッ…ふ、ふか、深いのらめぇっ」
根元までしっかりと埋められた肉棒が最奥、子宮の入り口を何度も叩く。フリオニールが言ったように、蜜を溢れさせたそこは耳を塞ぎたくなるような水音を響かせていた。
「やだぁ、やら…おかしくなっちゃ…せん、ぱ…あァんっ」
「やだ、じゃないだろ。気持ち良いって、素直に言えるだろう?」
小さな子どもをあやすような口調とは裏腹に、声音は熱っぽさが滲んでいる。
「いや、ぁ…あ゙ーっ!」
鍛えられた逞しい青年の体にすがり付きながら、少女は与えられる快楽に抗おうとした。けれどそれを男が見逃すはずもなく、腰を浮かそうとすれば一層深く穿たれる。
「ほら、気持ち良いんだろ?」
「は、いぃ…いいです……っ。あ、や…きもち、いぃ…です。あ、あんッせんぱいぃぃ…!」
「モリ、すごく可愛い」
普段なら言えないような賛辞も、今なら何のてらいもなく言えた。フリオニールからの珍しい言葉に、モリの体は敏感に反応する。
フリオニールは目の前で真っ赤になっているモリの耳へと噛みついた。ここが彼女の性感帯の一つであることは、既によく知っている。
「だめぇ、耳噛んじゃ…ひうぅっやめてくださ、」
「モリ、好きだ」
「〜〜ッ!」
直接脳に伝えるように甘い言葉を吹き込まれて、モリは声にならない悲鳴を上げながらイった。あまりの締め付けに、フリオニールも呻くような声を漏らす。
「待って…待っへくらさ、いあぁッ…い、イったばっかりらから……ひうぅぅ!」
「悪いな、もう止まらない」
絶頂後の敏感すぎる体を、容赦なく剛直で貫く。モリの小さな肢体には不釣り合いなほど逞しいそれは、胎内を目一杯に満たした。
「先輩、せんぱいぃッ!」
「モリ、俺の名前を呼んでくれ…っ」
「フリオ、ニ、ルせんぱ…あぅっ、あ゙ーッ!フリオニールぅっ」
ぴったりと腰を押し付けたまま、円を描くようにぐるりと奥をかき回され、モリの唇からは悲鳴のような喘ぎが漏れる。モリの一番弱い攻められ方を、フリオニールは既に知っていた。
無垢な少女のような顔をして、子宮が感じる悦びをその身にはたっぷり刻まれている。それを刻んだのは自分であると、そう思うとたまらなかった。
一層肉棒が硬く張りつめ、膨張する。射精の合図だ。
「くっ、出すぞ…!」
「な、中はらめっ、赤ちゃんできちゃ…ひああぁぁぁッ!?」
モリの制止も聞かず、フリオニールは勢い良く熱いものを迸らせた。ぴったりと腰をくっ付けているおかげで、直接精子が子宮へと送りこまれる。
「フリオニールの…ひぁんっ熱いぃ……」
肩で荒い呼吸を繰り返しながら恍惚とした表情を浮かべるモリは、誰が見ても扇情的だ。
そんな彼女の中から名残惜しそうに自身を引き抜き、フリオニールはモリの乱れた着衣を直し始めた。行為に夢中になっていたが、いい加減に帰らないとまずい。もう外は真っ暗だ。



いつもより遅い下校。そのせいで、馴染みの下校路もモリにはなんだか別の道のように見える。だから、普段は断ってしまうが、今日だけはフリオニールに送ってもらうことにした。
フリオニールは自転車を引いて、モリはその少し後ろをついて歩く。
「先輩の、えっち」
「っ…モリが、あんなに無防備に寝てるから…!」
フリオニールは慌てたように返した。モリの「えっち」の言い方に思わず萌えたことは秘密だ。
「それに、な…中に出しちゃうし…赤ちゃん出来たら、どうするんですか…?」
不安げに震えた声音に、フリオニールは力強く言い切った。
「責任はとる、いやとらせてほしい」
「…そ、それって」
立ち止まり、くるりと振り向くいたフリオニールは、モリの目を真っ直ぐに見て言い放つ。暗がりでもわかるほどに赤面している彼の顔からは、どこまでも本気だという意志が滲んでいた。
「俺と、ずっと一緒にいてくれ」
プロポーズ。
あまりの出来事に、モリの頭は真っ白になる。
何も言わないモリに、今度はフリオニールが不安を覚える番だった。
「モリ…?」
二度、三度と声をかけて、ようやくモリからの反応が返ってくる。
「あ、の……あの、私なんかで…いいんですか」
「モリでなくては嫌だ。それとも、モリは俺では嫌か?」
「そんなことっ!…あ、あるわけ、ない…じゃないですか」
羞恥で死にそうながらも、モリは必死に言葉を紡いだ。
フリオニールの言葉は真っ直ぐだ。だからこそ、余計心臓に悪い。
「今すぐに、というわけじゃない。俺も、モリも、もう少し大人になったら……俺と、結婚してほしい」
モリは早鐘のように鳴り響く心音を抑えつけて、小さく頷くのがやっとだった。
それでもフリオニールには十分だったらしい。暗がりで大まかにしかわからないが、こっそりとガッツポーズをきめていた。その手で小さな恋人の手を取って、彼らは再び歩きだす。
「いつかまたこうするときは、きっと同じ家に帰るんだろうな」
「そう、ですね…」


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