昼間に動き出した船の上。夜も大分更けて、見張り番以外はだいたいが寝静まっただろう時刻、エースは自室のベッドに寝転がりながらも、先日酒場で会った謎の男から持ちかけられた話の内容を思い出していた。

 立ち寄った島でログが溜まるのを待つ期間、一人で何となく入った酒場のカウンターで、食事と酒を堪能していると、隣に誰かが座る音がして、意味もなく視線を向けたエースに、男はそれを待っていたかのように話しかけてきた。

「お前さん、珍しい色がする」

 開口一番にそう言われ、だから少し気になったのだと続けられても、エースからしたら何の事だかさっぱり意味がわからない。
 感情をそのまま顔に出して、は? と疑問符を浮かべて首を傾げたエースに、男は気にした風もなく、店主に酒を注文すると再びエースへと視線を寄越した。

 老齢、とまではいかずとも、それなりに深みのある低音の声で話すその男曰く、自分は人の運命が色で見えるのだと語り出す。
 エースは、妙な者にひっかかったなと内心で呟くも、暇潰し程度にその男の話を聞いてやる事にした。

 男の話す“色”というのは結局最後までよくわからなかったけど、これからエースの周辺で起こりうるだろう事の話は、自分に関する事だからか、はたまた親父や家族、更には数年前に故郷とも言うべく島に残した弟までをも巻き込む内容だったからなのか、気づけば最後までしっかり聞き入っていた。

 時折、分析するかのように問われる質問にも答え、いつの間にかエース自身やその周りの人となり、状況、環境すらも言い当てる男に、奇妙な感覚を感じながらも無下に出来ぬ思いにも駆られ、あれから二日が経った今でも、男の話が忘れられないでいた。

 俺の所為で親父が死ぬ。確証も無い未来の話とはいえ、これが嘘や冗談なら聞きたくもない話だ。
 実際、親父の死を仄めかされた際、エースはそれまで半信半疑で聞いていたにも関わらず、怒りを覚えて頭に血が登った。冗談でもそんな話すんじゃねぇ、親父達を馬鹿にしてんのか! ――そう口に出そうとした直後、男は片手を突き出して制止をかけた。

「まぁ、待て。この話はここからが重要なんだ」

 男はそう言うと、空いたグラスに視線を移し、店主に追加の注文をする。
 カウンターの下、力任せにぎゅっと握っていた拳の行き場を無くし、エースは自身のグラスを手に取り、そこに残っていた酒をグイッと一気に飲み干した。

「俺だって海賊相手に態々気分を害すような話なんかしねぇさ。誰々が死んで、それで話が終わりなら、最初から俺はいつも通り見て見ぬふりして立ち去ってたぜ。色の事なんざ誰にも理解されねぇだろうしな。さっきも言ったろ?お前さんは珍しい色をしてるってな。だから声をかけたんだ」

 まぁ、飲め。と酒が並々入ったグラスを渡してくる男をエースは繁々と見つめてしまう。いまいちこの男の言うことがわからないのだ。気分を害する話をするつもりはないと言いつつ、先程同じ口から発せられた言葉は、充分真逆のものだったというのに、いったいどういうことなのか。
 話には続きがあるようだが、親父の死を上塗りするほど良い話があるとは到底思えず、受け取った酒を一口飲み、仕方なく気分を切り替えてから、エースは男に話の続きを促した。








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