駅までの移動中、電車に揺られる間、そして目的地のショッピングセンターへと着いてからも尚、マルコは私の左手を握ったまま。
 改札機を通るときは流石に離してもらったけど、通った後にはすぐに握り直された。

 なんとなく、彼のイメージ的にあまり手を繋いだりするタイプじゃないように思えたのに。
 強く、だけど優しく包むように握られたその手からは、彼の体温が感じられていた。

「次は何を買うんだい?」

 休日ともあって、様々な客層で賑わう中を縫うように歩いていると、マルコからそんな疑問が投げ掛けられた。
 日用品の類いは既に一人で買い物に行った時にある程度揃えたし、衣類に関してはつい先程、上下合わせて一人二三着程度のものを買い終えていた。この場に居ない三人のものはマルコに見立ててもらった。
 少し少ないような気もするけど、毎日洗濯すれば問題なくローテーション出来るだろう。いつまでいるのか定かじゃないし、うっかり余分に買って使わずに帰っていかれたりでもしたら無駄以外の何でもない。
 働いて多少貯蓄があるとはいえ、大盤振る舞いに彼等を養っていけるほどの余裕は持ち合わせていないのだ。切り詰められるとこは切り詰める。

「あの、」

「ん?」

 次に買うもの、問われてすぐに浮かんだのは彼等の布団。だけど答えようとする前に、ある事に気付いた私は、一旦端へと寄ってから立ち止まる。

「布団、買おうと思ってたんですけど、その……敷くとこが、スペース的に足りないんじゃないかと、気づきまして……」

 もの凄い今更な事だと思う。というより、何で彼等と暫く生活するって考えた時点で気がつかなかったんだろう。
 家は1LDK。ひと続きのリビングダイニングキッチンとは別に、個室が一室ある作りだ。その一室は普段寝室として使っていて、そうなれば当然マルコ達にはリビングの方で寝起きしてもらわねばならない。
 だけど、もともと独り暮らしで物はそれ程多くないとはいえ、家具などはある程度それなりに揃ってる。テレビ、ソファー、テーブルの他、本棚に飾り棚。それらが置かれる中で、果たして四人分の布団を敷くスペースがあるのかと問われれば答えは否。
 たとえテーブル等寄せれる物を寄せたとしても、きっと精々二人分。無理をすればギリギリ三人分はなんとかなるかもしれないけど、それでも四人分の布団を敷くには足りない。寝室を明け渡すという案も一瞬浮かんだけどやっぱり若干スペースが足りないし、何よりも普段寝起きしてたとこに人を入れるのは何だか躊躇われる――というより、なんか嫌。

「別に布団がなくたって問題ねェよい。雑魚寝すんのも慣れてるしな」

「いや、でもそれは……」

 何だそんなことか、とでも言うかのような口ぶりでマルコは言ったけど、布団も与えず雑魚寝させて自分だけベッドでぬくぬく寝る……なんて事は、流石に私がいたたまれなくなる。
 かといって他に部屋なんて無いからスペースの問題がどうなるわけでもい。

「なまえ。俺達は置いてもらえるだけでありがてェんだ。無理なら無理でいい。それに、今までだって宴の後には酒飲んでそのまま甲板で寝ることも数えきれねェくらいあるんだ。気にすることねェさ」

 どうしようと考える私に、言い聞かせるようにマルコはそう言った。
 確かにどれだけ悩んだところで部屋の広さは変わらないし、敷けもしない数の布団を買ってもそれは無駄になる。切り詰めるとこは切り詰めると決めてた手前、明らかな無駄遣いを早々にしてしまうのは今後のためにもよくないだろう。でも、だからといって、朝晩の冷え込みがこれからどんどん厳しくなってくるこの時期に、布団もろくに使わずに雑魚寝させるのはやっぱり私の気が咎める。

「……じゃあ、せめて、コタツ。コタツ出します。……それで、掛け布団、いっぱい買いましょう」

「こたつ?」

「はい、コタツです」

 寝具を取り扱う店舗へと足を動かせば、手を繋いでいるためにマルコも自然と動き出す。私がどうにか捻り出した考えは、彼等にコタツで寝てもらおうというものだった。結局、雑魚寝と大した変わりはないかもしれないけど、そのまま寝られるより幾分はましだろう。

 そうして、タオルケットや毛布等を人数分買い込み、さらに別の店舗で長座布団を四枚買って、私たちは帰宅した。
 本当は食材も買おうかと思っていたけど、衣類に毛布を人数分ともなればその量は既に私たちの両手をふさぎ、繋がれていた手も自然と離れていいる。
 電車に乗るのすら荷物の多さから躊躇われ、幸
いにも家までは一駅分と言うこともあって、仕方なくそこはタクシーを使うことにした。

 電車もショッピングセンターもタクシーも、マルコにしたらどれもはじめてなはずなのに、時折きょろりと動く視線以外は平然としていた。







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