桜が降る。
 この国の神は、自由がない。人々の思想に縛られ、時に研究材料となり、個は必要とされない。
 心はとうに壊れた。やるせない気持ちが、機嫌の悪い時ばかりに顔を出す。
 あれから数日経った。
 今は、聖誕祭の式典が行われる前の新たな静華の紹介だ。
 淑静は、仰々しい神が座る椅子へと促された。そこへ腰かけ、肘をついて、新しい静華の登場を待つ。
 聞けば、若い子はすべて順番が来てしまったらしい。かといって、今代の淑静は同じ静華を二度は就かせない。そのため、榮老師が自ら選出するはめになったと小言を言われた。
 今回の子は、聖誕祭の関係上、長期で就く。
 あまり、期待もしていなかった。
 何かが変わるわけでもない。
 榮老師が、一人の青年を連れてくる。
 そこに現れたのは、漆黒だった。
 短く切りそろえられた漆黒色の髪と、同じ色の強い瞳。
 一瞬、目を留めてしまった。
 しかし、この現実が変わることはないだろうと、精気のない目に戻った。
 どうせ、変わらない日常だ。
 新しい静華に、淑静はいつもより意地悪な口調で声をかけた。
「ご奉仕するにゃんと、鳴いてみろ」
 反応を見るための冗談に、男は、口を衝いて出てしまったようだ。
「はぁ?」
 いつもとは毛色が異なる静華の男に、淑静は目を見開いた。
 先見の漆黒。
 彼との出会いが、淑静の運命を変えることになるとは、まだ本人すら知らない。

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