泣きわめいてそしたら全てが綺麗になるから

「ーーおい。これ、君だよな。君のことだよな。いーや、絶対にお前のことだ」

怪盗キッドが現れたあの日。わたしは結局、寝付かなかった。変に興奮してしまっていたのか、寝付けなかった最初よりも明らかに目が冴えていた。そんな日から、まだ二週間も経っていない頃。怪盗キッドは大胆にも、帝丹高校に予告状を出したらしい。受けて立ちましょうと好敵手に闘志を燃やす工藤新一がキャスターに答えていた。忘れたいのに忘れられなかったあの日の怪盗キッドの顔と工藤新一が重なって見えるほど、わたしは追い詰められていたらしい。

「わ、わたし? そ、そそ、そんな訳ないですよ。どう、して、その答えがわたしになるのです、か?」

駅前にあるチェーン店展開しているパン屋でお気に入りの塩バターパンを頬張っていれば、不意に隣に人が座った。先ほどから控えめに聴こえてくる黄色い声に耳を傾けていれば、それが隣から聴こえてきている。あからさまに見遣るのは失礼かと思い、ちらりと隣に視線を動かせば、頬杖をつき、わたしを見下ろす冷たい目と合った。そこには、制服姿の工藤新一が座っていた。

「久しぶり」と抑揚のない声で再会を表現し、二言目には冒頭の言葉を発した。とても短気な人だと、なぜか冷静に感じていた。

「どーもこーもねえんだよ。予告状の暗号にお前のことが作為的に書かれてんだよ」
「さ、作為的? どういう意味ですか」

確かに、怪盗キッドはわたしに向けて予告状を出すと言っていた。それがなぜ、わたしに辿り着くのか。塩バターパンをちまちま食べ続けながら工藤新一を見遣れば、とても探偵とは思えない表情をしていた。

「お前があの気障なこそ泥と仲良くしていようがいないがどっちでもいいが、狙いがお前だというなら、俺はお前を守らなきゃならねえ」
「……え? わたしが狙い?」

思わず落としそうになった塩バターパンをお皿の上に置く。すっかり冷めたであろうカップに手を添え、食い入るように工藤新一を見つめれば、なぜか気まずそうに一瞬だけ目線を逸らされた。

「……それ、予告した日はいつなんですか?」
「あ? ああ、予告の日時は三日後の午後二時。白昼堂々と奴はお前に近付いてくる」

怪盗キッドがわたしを狙っている。そのような会話はした覚えがないが、工藤新一は予告状の暗号を解き、その答えがわたしだと言っている。わたしに向けて予告状を出すのではなかったのだろうか。

「……そう、ですか」

なんて言うか、なんと言えばいいのか。唸り声ばかり出て、良い返しが見つからない。この場合、わたしはなんて返したらいいのだろう。律儀に工藤新一に守られて、怪盗キッドが考えている策に追い追い乗っかればいいだろうのか。

「……オメー、会ったことあるだろ」
「まっ、さかあ……」

ジト目で睨んでくる工藤新一から逃げるように視線を窓の外へ移す。



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