ずっと青くてきっとせつない


「注文お願いします」とカウンター越しに言おうとする前に褐色の肌の店員がわたしの方に振り向く。「ご注文お決まりでしょうか」と問いかけられて、わたしは一瞬だけ言葉を詰まらせた。

「……あ、はい。コーヒーとミックスサンドをお願いします」

「かしこまりました」と営業スマイルを飛び越えて、黄色い声が聴こえてくるようなスマイルで背を向けた店員をじっと見つめる。マスターと梓さん以外の店員を見たのは初めてだった。そんなわたしを知ってか、店員はコーヒーを置いて微笑んだ。

「先週から働かせてもらってます。安室透です。いつも梓さんからこの時間帯に来る常連さんがいると聞いてたので、お会い出来て嬉しいです」

午前十時。アルバイト先に向かう前に必ずと言っていいほど、喫茶ポアロで遅いモーニングをしようと決めているわたしは週に一度は来ていた。紳士的なマスターと気さくで可愛らしい梓さんと段々顔馴染みになっていたが、今カウンター越しに爽やかに微笑んでいる店員の安室さんに、なぜか戸惑いを隠せないでいた。疑わしいというか、不気味というか、言い表せられないなにかがわたしの脳内に警告音を鳴らす。曖昧に微笑みだけを返して、コーヒーにミルクを入れる。決まった方程式で渦を巻くミルクを見て、わたしは普段から角砂糖を二つだけ溶かし、ミルクは入れたことがなかったことに気が付いた。

苦みはそのままのコーヒーが白濁色に染まっただけなのを見つめて、辺りに視線を動かす。平日の午前中というのは静かだ。これが十二時過ぎになると結構な賑わいになるから、それまでには出ようと毎回思うのだが、善意でかおかわりのコーヒーをそそぎに来てくれる梓さんの笑顔につられて、何時間も居続けてしまうわたしは嫌な客なのだろうと薄々感づいてはいる。

「お待たせいたしました。ミックスサンドです」

嬉々として登場したミックスサンド。首だけで会釈をしてミックスサンドを頬張る。「美味しい」思わずこぼれ出た言葉に安室さんはにこやかに「ありがとうございます」と返された。








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