森の色づきはじめた、暖かな春の日。

幼く美しい姫が千手一族の住まう集落へ連れられて来た。

それはまだ、扉間が十五のころのこと。


***


マダラは森を駆けていた。
戦火を免れた長閑な風景が目に優しい。
このごろのマダラは、そのほとんどの時間を一族の集落ではなく新しい里で過ごしていた。その分面倒な仕事を任されたりもするのだが、長い間争っていた千手と手を組み忍の里をつくろうとしているのだ。それも仕方がないことである。
今はその面倒な仕事の帰りであった。
里というシステムを一からつくるためには、国の協力は不可欠である。火の国の大名へと書状を届け、その足を里へと向かわせていた。
それにしても平和である。
里の領地に入ってしまえば喧嘩を売ってくる忍もおらず、マダラはのんきに欠伸をしていた。
ら、足元の草むらが揺れた。忍世界で一二を争う実力者のマダラである。その類い稀なる反射神経で瞬時に足を止めようとした。

「!」

したが、欠伸をしていた分だけ反応が遅れたことは否めない。何かを蹴り飛ばした。吹っ飛ぶそれは、蹴った感覚で想像したよりも大きい。
というか砂利だ。っていうか女じゃねぇか。
瞬身で先回り、己が蹴り飛ばした娘を受け止めた。

「おい、大丈夫か」

抱き上げて声をかけてみるが娘は腕の中でくたりとしている。

「…死んだのか?」

チャクラは練っていなかった。走っていたとはいえ、マダラにとっては散歩程度の速度だった。抱き上げた体は確かに小さく軽いが、ふつうあそこまで派手に吹っ飛ばない。まさか、死にかけていたところにとどめを刺したのだろうか。

「……いき、て、おり、ます」

息も絶え絶え、娘は口を開いた。ぐったりしていて顔は蒼白い。

「そ、そうか。お前、こんなところで何を」

言いかけたマダラが静かに止まった。
娘の衣に見慣れた家紋を認めたのだ。





荒々しく開かれた扉に、柱間はビクンと体を揺らした。
争いが絶えない忍世界で、ようやく里というシステムを確立できそうな今、柱間は来る日も来る日も戦っていた。忍相手ではなく、山のような書類と。

「め、目を閉じていただけぞ!寝ていたわけでは…ってマダラか」

扉間かと思ったと額の汗を拭う柱間に、マダラは呆れた視線をやった。

「テメェ、人を使いっぱしりにしておいて自分は居眠りか」
「がはは!どうもこういうことは苦手での。して、大名さまはどうだった?」
「あ?別に…っと、それより千手の家紋をつけた妙なガキを拾ったんだが」
「妙なガキ?誰ぞ?」
「知らねぇよ。なんか小せぇ白い女」

よくよく見ればマダラの左腕にかけられた外套がこんもりしている。
「ん」と差し出されたそれをめくった。

「!?!?!?」
「千手のやつじゃねぇのか」
「ひ、ひ、ひ、…」
「なんだよ」
「ひ、姫様!なまえ姫さまー!!」

とんでもない声量だった。危うく娘、柱間曰く姫様とやらを落としそうになった。蹴り飛ばされたあげく落とされたら、この細っこい姫は今度こそ死ぬ。子供を死なせないためにつくっているはずの里で、さっそくうっかり殺しましたでは笑えない。

「と、と、と、扉間ー!!!!!」

まだ名もなき里に、柱間の声が響き渡った。