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帰宅路を歩きながら、本日もう何度目になるのかわからないため息をついた。
二人の熱々っ振りを見せ付けられる事に慣れてしまえども、胸が苦しくなる事には変わりない。
だから、不謹慎にもまたあのカップルが喧嘩をしないかなと、思ってしまう。
喧嘩をすると必ず、数馬は俺の家へ転がり込んでくる。
人恋しいのか、俺へ抱きつきながら彼は、もうお決まりの台詞になってしまった――もう彼女と別れようかと思う――という言葉を耳元で呟いてくる。
心に住んでいる悪魔が、今告白しちまえよと訴える。しかし翌日には仲直りしているというパターンが定着している彼らが、このまますんなりと別れるはずがないと分かっているので、その悪魔を心の奥深くへ閉じ込める。
「お前が女だったら絶対に、付き合っていたのにな」
もう何度耳にしたかわからない言葉を呟きながら、数馬は俺の胸で涙を流す。
その甘い汁は、この身体を幸福へと導き、たとえそれが一時のものだとわかっていても心へと注ぎ込んでしまうのだが、結局やはり翌日には必ず仲直りをする彼ら。
俺は毎回、舞い上がった分だけ衝撃の強い落下を繰り返し、そんな自分へ悶々と悩むのだが、やはり彼への胸が高鳴るこの感情を捨てる事が出来ない。
――いっその事、数馬へ告白をしてしまおうか。
彼の視線にどれだけ胸が騒ぐのか。発音の良い声にどれだけ頬を赤らめているのか。共に歩くとき、小幅なこちらに合わせて少しだけゆっくりと歩いてくれる彼の優しさに、どれだけ胸を掻き、抑えているのかを。
何を馬鹿な事を考えているのだろう。
頭を左右に振って、その考えを脳の中から振り払う。
彼女がいる男への告白など、玉砕するに決まっている。それに、あの朗らかな笑みが曇る瞬間を見たいほは思わない。
何も出来ないこの状態は辛いが、それでも共に過ごすことができるのだから、幸せだと思わないと。明日もまた、数馬に会えるのだ。
頭の中にある電話は、やはり、鳴らない。
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