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二人きりの保健室はいつもよりとても狭く感じた。
椅子に座れと言われ、素直に従う。
救急箱を探している井上を横目にカッターシャツを脱いだ。
衣擦れの音を聞いたのか、井上が振り返る。
彼の視線を感じながら、露になった胸元を見せつけた。
「……脱ぐ必要は無かっただろう?」
その冷たい声に、飯束は唇を噛み締めたくなった。
「俺、そんなに魅力無い? こんなことをしても先生は――あんたは、全然何も感じないのか?」
眉を下げて悲しげに俯く。
足音が近づいてきた。
救急箱が置かれる音を聞き、飯束の肩が落ちる。
「腕をこちらに伸ばせ。肘を消毒するから――」
「嫌だ。質問に答えるまでは、動かない」
井上のため息が、髪にかかってきた。
「お前は一体何がしたいんだ」
飯束は顔を上げた。
すぐ目の前にある顔へ、震わせたまつげを見せる。
「先生とセックスがしたい」
そうすれば、落ちるに違いない。今まで数々の経験をこなした自分であれば、きっと。
飯束は、甘えるように瞳を潤ませながら井上の反応をうかがう。
一度、まぶたを閉じてから、井上は眼鏡を外した。それをそばにあった机の上へ置く。
その音を聞き、飯束の胸が早鐘を打った。緊張と興奮に汗をかいている。
自分よりも六センチ高い身長をした井上より、上から顔を覗き込まれた。
「そんなに抱かれたいか」
「せんせぇとやりたくてたまらない」
わざと舌っ足らずに言い、開いた唇より舌を見せつけながら言葉を続ける。
「毎晩あんたから入れられる想像しながら、オナって――」
と、そこまで発した時、井上の唇に続きの言葉は吸い込まれた。
突然与えられた快楽に、飯束は思わず井上へすがりついてしまう。
抱き合いながらキスをしている二人の間に雄の、濃厚な匂いが立ち上った。
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