「竹川先生は夕日がお好きですよね。僕は、あの赤い色が少し苦手だな」

「俺は逆に、雨が駄目ですね。どうにもだるくなってしまう」

「児童にもそういう子がいるのかな。雨の日は決まって遅刻してくる子が一人、クラスにいますよ」

 竹川先生が、まぶしそうに細めた目でこちらを見つめてきた。

「そうやって、児童一人一人へ細かく目を行き届かせる上代先生が好きです」

 頬が一瞬で熱くなった。

「や、からかわないでください」

「照れ屋なところも可愛いですね。さあ、行きますよ?」

 再び歩き出した竹川先生の隣へ並ぶ。

 窓ガラスに映った自分の顔。切れ長な二重まぶたが恨めしい。銀縁めがねをかけているからまだ、レンズのお陰かその目つきが多少はましになるのだけれど。

 竹川先生がトイレの前で立ち止まった。

「さ、お先にどうぞ」

 と、横へ退いて先へ通される。

 もう時刻は夕方六時。大半の児童は帰っている。

 中へ入ると人は居なかった。ほっと胸を撫で下ろす。

 二人で個室へ入るとすぐに、竹川先生が唇を寄せてきた。その、肉厚な唇でキスをされるといつも、こちらが食われているような感覚に落ちる。

 唇の端から端まで舐められて、首の後ろがびりびりと痺れた。キスは、どうしてこんなにも気持ちがよいのだろう。ざらりとした舌の感触。どんどんあふれ出てくる唾液が絡まりあって、唇の端から滴り落ちてゆく。

 うっすらとまぶたを開いたままキスをすると、竹川先生の長いまつげが近くに見える。影を帯びた目元が徐々に赤くなってゆく様子を見ることが好きで、こうしていつもまぶたを閉じられない。

 竹川先生がネクタイを緩めた。

「ほら、上代先生。ネクタイをください?」

 疑問符をつけていても強い瞳の輝きで、命令されているのだとわかる。

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