結婚しようって、君が、言ったね。同棲してから喧嘩を繰り返し、仲直りをしてはそう、言ったね。僕は、指輪を用意していたんだ。君の、言葉を……受けて。

 給料三ヶ月分の、ね。おそろいの、シルバーリング。実はそのベッドの下にずっと隠していたんだ。

 身じろぎ、したね。起きた? いいや、起きていたのだよね。

 近づいたら、そんな風に、肩を、びくつかせて、何をされると期待しているの。ねぇ、ねぇ。君。

 白い肌だ。本当に、透き通るような。抱きしめてもいいよね。ああ、温かいな。いつからだろうか。君が、照れて、抱き返してこなくなったのは。

 同棲してから半年後。今から九ヶ月前くらいか。一度、家出をしたよね、君は。

 気が狂うかと思ったよ。君は僕の総てなのだから。

 一ヶ月と十日。生き地獄を味わった。それでも仕事へ行く自分を嘲笑った。君が戻ってきた時に情けない自分を見せたくないと、必死に、崩れ落ちそうになる身体へ定規を差した。無理に伸ばした背筋はもう、軋む音すらさせなくなって、ね。だから戻ってきてくれた時は嬉しくてたまらなかったよ。本当に、本当に。

 もう君なしでは生きておられない。知っているよね、君は、それなのに、それだから。

 玄関までぎりぎり届かないけれど、各部屋、ここと、ユニットバスと、キッチンには行ける。そんな長さのものを用意することはとても苦労したし、工夫させられたよ。

 ねぇ、ねぇ、君。君。

 お願いだから、抱き返してくれないか。

 好きだと、最初に告げてきたのは、君でしょう。

 今でも僕が好きなのだよね。愛しているのだよね。だから、戻ってきてくれた。そうではないのかな。そうではないはずがない。

 どうして震えているの。泣いているの? 鼻を、啜って。

 ほら、キスをしてあげる。頬にも、この丸い額にも、可愛らしい小さな鼻にも、形の良い唇にもキスを。たくさんのキスを。

 ――サイレンの音が、聞こえてきているね。下に、止まったみたいなのだけれど。

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