「男からちんぽをぶち込まれて喘ぐ気分はどうだった?」

 間近に見る目に、不気味な光が宿っている。

「お前、もう普通の生活には戻れないな。強姦されイっちまうアダルトビデオをネットに流されて、こうしてヤクまで打たれてさぁ」

 口の中で何とか舌を回し、強制的に湧き出させた唾液を飲み込んで、喉の渇きを僅かに癒やす。

「どうして……いつまで、こんなことを」

 握り締めた手が震えた。過去一度だけ、大学内でゲイを見かけた。その時隣を歩いていた智泰と、ゲイについてを語り合った。彼は、吐き気がするな、と言った僕の言葉に同意したのに。いや、つまりは身の毛のよだつ行為を僕に強いたかったということか。そこまで恨まれる何かを彼にした覚えはない。理不尽さに喉が熱くなった。

 外は風が吹き荒れているようだ。プレハブ小屋の揺れる音がする。

「今日で終わりだ」

 さらりと言われ、一瞬聞き間違えかと思った。眉を顰めながら彼を見つめる。

「信じられないか? それとも、足りないって? とんだ淫乱になったもんなぁ、お前。ちんぽをうまそうにしゃぶりやがって」

 何が言えるだろう。頭の先から血の気がざっと下がる。

 智泰は再び煙草を吸い始めた。煙の奥に見える、爽やかな笑み。

「一週間後の、大学卒業と同時にな。結婚するんだわ。親が決めた婚約者と、さ。だから最後にこうしてパーティーを開いたわけだ」

「嘘、だ……」

「嘘だったらなぁ。ははっ、生まれた時から俺の将来は決まっているようなもんだ。本当に欲しいものは手に入りそうもなく、親の決めた女と結婚し、親の会社を継ぐ。敷かれたレールの上を走るだけの人生で、大学くらいは遊ばせてもらいたいと思っても仕方がない。そうだろう?」

 ああ、耳障りだ。じじじっと鳴る虫の羽音。耳の中でじたばたともがいているそれ。

「お前、俺に言ったよな。地味な人生を送ってきたと。君が羨ましいと。はは。はははは! どうだ。人生が全く変わった今の気分は」

 目の前が暗い。ここは、こんなに光が差さない場所だったか。

- 55 -

*前次#


ページ:



ALICE+