選ぶことはなく、目に入った街金で金を借りて智泰の身辺調査を探偵に依頼すると、彼に恨みを持つ人間はすぐに特定できた。ああ、僕は、本当に愚かだった。さっさとこうしていればよかったんだ。こうなってみて、借金を背負うなどまだましなことだと気づく。

 残った金を使い、そいつらを五人雇った。卒業式を終えた智泰を車で拉致し、鬱蒼としたこの森へ連れてくることは、拍子抜けするくらいに簡単だった。

 智泰は、頭から黒いビニール袋を被せられ、がくがくと震えている。ぶっ、ぶぶぅ、と聞こえてくる音は、彼の鼻呼吸だろう。

 綺麗な弧を描いた一重のまぶたが今、どんな風に涙に濡れているのかが見たくなり、ビニール袋を剥ぎ取る。

 まぶたを限界まで見開いた彼は、とても醜かった。涙どころか鼻水まで垂らしている。いや、それだけではない。はめさせた猿轡は唾液でべたべたに汚れている。

「口はきけないだろうけど尋ねるよ。気分は?」

 彼は、僕の姿を目にした途端、強く顔を顰めて低い唸り声を発した。頬へ思い切り蹴りを入れれば情けなく地面に横たわり、後ろへ集められ縛られた手足を虫のようにばたつかせる。

「気分は?」

 もう一度聞いてみる。彼は、答えない。

 ズボンのポケットから煙草を一本取り出した。その先端に火をつけ、煙を肺深くまで吸う。煙草の味は智泰から教わった。彼から学んだことは多い。

 夕焼けが、青々と茂った木々の隙間をうまくすり抜け、地面へと差し込んでいる。赤く照らされたそこを踏めば、唐突に笑いの渦が込み上がってきた。

「は、はははは、はははははははっ!!」

 まぶたを強く開いたまま笑う。

 智泰の顔が奇妙に歪んだ。

 三脚に固定したビデオカメラを智泰へ向けさせた。数人の男へ顎で、やれ、と指図すると、彼らは嫌味を含んだ笑みを浮かべ、彼へ襲い掛かってゆく。

 事前の打ち合わせ通り、ローションを使わせるつもりはない。智泰の着ていたティーシャツは、引き千切られゴミと化す。

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