「……でもわたし、お姫さまじゃないわ?」
ヴィヴィアンは首を傾げてマーリンに尋ねた。
確かに一見すると絵本のようなワンシーンではあったが、ヴィヴィアンはまだマーリンの半分ほどしか背丈の無い少女である。こうして膝を折ってようやく顔を合わせる事ができる程に二人は歳が離れているのだ。無垢なこの返しにマーリンの笑顔が止まる。ヴィヴィアンは変わらず首を傾げたまま。
「うーん!これでも結構自信のある口説き文句だったんだけどなぁ!」
手はそのままに、あぐらをかいて座り込んだマーリンの向かい。合わせたようにヴィヴィアンも腰を下ろした。
「くどきもんく?」
「おっと今のは忘れてくれ」
まるで煙を払うかのようなジェスチャーのあと、コホンと咳払い1つ。
今度は大事そうに、労わるように両手を重ねた。
「でもさっきの言葉はわたしの本心だよ」
「……マーリンは人さらいなの?」
「いいや?人攫いっていうのは相手の意思に関係なく人を売ったりする人間のことだろう?」
「人攫いは攫っていいですか?なんて聞かないだろうさ」
「そう言えばそうね、へんてこね」
「実はわたしは魔術師でね?本当なら塔の中でずっと一人なのさ」
「まじゅつし!」
「すごいかい?」
「すごい、絵本みたいね!」
「でも一人ぼっちなの?」
「うん。……だから私は君を攫いに来たのさ」
「……どうしてわたしなの?」
「君の瞳が美しかったから」
「ヴィヴィアン、君の瞳は美しい。心もね、だから私は君を傍に置きたいし」
「……見ていたの?」
「見ていたとも、魔術師だからね。君が盲人でもないのに目を伏せているのも、」
「その美しい瞳を閉じて何も見ないふりをするのであれば、そこが世界の果てでも構わないだろう?」
「」