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「まだ、彼女だと断定するには情報が少なすぎる
 本来なら、その妖に会って確認したいところなんだけど」

「その人と知り合いなんですか?」

「まぁ、一応ね。彼女も祓い屋の家の出でね。名前は、椿明翠」

「椿明翠・・・・」

「祓い屋の中でも名の通った家だよ。
 4年前に、妖に襲われ一家全員が命を奪われた」

「・・・・・・・・」

「その中で1人、明翠ちゃんだけ、どこを探しても遺体が見つからなかったんだ」

「・・・・・」

「彼女は、当時高校3年生で、すでにその力に一定の評価を集めていた
 椿の家は、代々長男が当主を継ぐことになっていたけれど、力からしたら彼女の方が
 間違いなく上だった。」

「そんな力を持っていたのに、妖に?」

「それだけ強い妖だったってことか、夜中に襲われたこともあって対応が遅れたのか
 わからないことが多くてね。偶然彼女の家が狙われたのか、誰かの指示で襲われたのか・・・」

「誰かの指示って、妖に襲うように頼んだ誰かがいるってことですか・・・・」

「どちらかは、わからないよ。でも、その可能性はある
 椿が名家であることもだけど、明翠ちゃんは、的場の幼馴染であり、許婚だったんだ
 だからもし、後者だった場合に彼女を助けることは、別のものに恨みを買う可能性もある」

「・・・・・・・的場さんの許婚?!」

「2人は、仲が良かったんだ。だから、どちらかというと、そういう考え方をする人だよ」

「・・・・・・・」

「家族を襲われる以前に、母親を妖に殺されたこともある・・・
 彼女は、妖を恨んでいるんだよ、きっと。妖を消すことになんのためらいもなかった」

名取さんが、おれに関わるなと言った理由がわかってきた
そうだとしても、彼女助けないという理由にはならない
あの人は、おれを妖から助けようとした
それが妖の血肉のためだったとしても・・・

「このこと的場さんに伝えた方が」

「そうだね・・・・でも、とりあえず、こちらだけできることはしてみようか」

「・・・・・?」

「的場は、あの人は躊躇いなく妖を消す。そうすることで彼女の存在が消えてしまっても」

「どうして・・・だって」

「君も的場という男を知っているはずだ」

「明翠さんと幼馴染で、それに」

「だからだよ。彼女のために、的場は躊躇わない
 力のあると言われた彼女が、愚かにも妖に取り込まれたなんて、
 祓い人の彼女は、自分が許せないだろうから」



そうであったとしても
明翠さんが、それを望まなかったとしても
助けたいと思った

全て話おえてから、彼女と決まったわけではないけどねと
名取さんは付け足したけれど
おれの会った、あの妖は彼女だと思った
根拠も何もなかったけれど、そんな気がするのだ


結局、名取さんがこちらにいる間には
あの妖は姿を現さなかった



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