『思ってた以上に暗い・・・』

「懐中電灯の電気が切れたら終わりだ」

『・・・不吉なこと言わないでよ』

「怖い?」

『・・・・怖くない』

「昔みたいに、手でも繋ごうか?」

『遠慮しまっ!!』

背後で鳴った太鼓の音に、びくりとして立ち止まった明翠を笑ってやる
それにしても、くじで決めたというのに、幼馴染とは恐ろしいものだ

「ほら、さっさと終わらせよう。それほど悪い気もない」

立ち止まったままの明翠の右手をとって前に進んだ
今日は天気が悪く月明かりも窓から入らない
建物が古いこともあり、窓から入る風の音と雨音がずっと聞こえてくる

小物の妖が住処にしているのか、時たまちょろちょろと廊下を過ぎて行った

『ひゃっ!』

「?」

『今、何か冷たいものが・・・何?』

「・・・雨漏りじゃない?」

懐中電灯で照らせば、確かに天井から、ポタリポタリと水が垂れている
下も確かに濡れていた

「見える分、こういうのが怖いんだっけ」

『・・・・・・』

「無言は、肯定」

『・・・・・さ、さっさと終わらせるわよ』

「さっきから立ち止まってるのは明翠だ」

『・・・・・・・うるさい』

「ははっ」

それから、しばらく歩いて行くと
お化け?の振りをして脅かしてくる者がいたけれど
たいして怖くもないというのに
突然出てくるそれに対して、びくりと身体を震わせる彼女が
面白くて仕方がない

『・・・・・』

無事に奥にある蝋燭の元から
印のついた小銭を手に入れ
別のルートで、出口へ向かう

帰りのルートの途中からが妙に暗い

「窓が塞いである」

『!!』

「はぐれたら大変だ」

『・・・・・って、ちょっと待ってよ』

「これは、教室に入れってことか」

『・・・だから、待ってって言って』

「あはは、おいで」

『私は、犬じゃないわ』

再び彼女の手をとった
相変わらず小さい
自分が成長したこともあって
明翠が余計小さく見えるようになった

『・・・・雨、結構降ってるのね』

行きより、雨音が強くなっている
部屋全体を懐中電灯で照らすが、特に何もなさそうだった
とん、と腕に彼女がぶつかった
まだ目が慣れていないのか、キョロキョロと周りを窺っている

『?!』

違う場所から聞こえた悲鳴に、左手が自分の服を掴んだ

妖に立ち向かうくせに
人工的なものが怖いというのも変な話だ

「さっさと、終わらせるんだろう?」

『・・・うん』

また手を引いた
妖しいなと思っていたロッカーからは、案の定人が出てきて
“バン”という音に驚いたものの
出てきた人に対しては素通りだった

その部屋を出ても、廊下は暗い
目が慣れてきたこともあり、最初ほど暗くは感じなくなったけれど
わざわざそこまでしなくともいいのにと思う

「・・・・・」

『・・・・・・?』

「・・・・・・」

『・・・的場。電気』

「・・・電池切れだ」

『・・・・・まぁ、もう大体見えるからいいけど』

「おれが、どこにいるか、わかっ」

『ここ』

「・・・つまらないな」

すっと手を放して距離を取ったものの
離れた手をすぐに回収された

ごろごろと雷が遠くてなり始めた
これは、しばらく雨宿りしなければ帰れないかもしれない

「階段か・・・平気?」

『・・・平気よ、ちゃんと見えてる』

自分が1階に足を付けた時
近くに雷が落ちたのか、ガッシャーンと大きな音が鳴った

『・・っ!』

「大きな雷だ・・・雷獣の類でも来ればいいのに・・・・・」

『・・・・・・・』

続けて雷の音が鳴る

「明翠」

階段の途中でしゃがみこんだのがわかる

『・・・・・・・』

「・・・・・」

『・・・・・・』

そういえば、昔から大きな音が苦手だったなと思い出す

目をきつく瞑り両手で耳を塞いでいる
叫び声も上げず、ただ1人でやり過ごそうとしている
いつもいつも、1人で何とかしようとする

両手の上から自分の手を重ねた

「怖いとそう言えばいいのに」

今の明翠には聞こえていないだろう

「おれとしては、頼ってもらえると男冥利に尽きるんですが」

また、大きな雷が落ちる
本当に、これは何かしらが来たかもしれない・・・
明翠がピクリと反応する

『・・・的場』

「・・・ん?」

『来る』

その言葉と、ほぼ同時に階段の踊り場にある窓ガラスが派手な音を立てて割れた
とっさに右手で明翠を抱きこみガラス片をやり過ごす
少し左手に痛みが走ったが、大した怪我ではない

腕から抜け出した明翠が、視線でそれを捉える
構えられた指がすっと妖に向けられ陣が形成される
何度見ても不思議なものだ
椿の血が成せる技というやつなのだろう
結界に囲まれ動けず暴れるそれを徐々に力で抑えていく
空いている手で札を飛ばし、縛り付ける

今まで傷だらけになってきただけあって
祓う事に関しては、確実に明翠の方が上を行っている
そんなことは、わかっている
とっさに、これだけの判断ができるのだ

『・・・・・・っ!!』

「ふっ・・」

窓の外で光が走った
ピクリと身体を上下させたので
後ろからそっと、耳を塞いでやった

その上から、明翠の手が重なる

「・・・っ」

何人かがこちらに走ってくる音が聞こえた
手を耳から外せば
すぐに明翠が封印した札を取りに階段を上がって回収し
その場を後にした

『・・・的場、怪我してる』

「これくらい、すぐに治る」

『さっきのガラスで?』

目張りのされていない廊下を少し後ろを歩いていた明翠が
廊下に垂れた血に気が付いた

『・・・・ガラスが残ってないといいのだけど』

そう言って、ガーゼと包帯を出してきた

「そんなものどこに」

『私の常備品』

「・・・・・自慢になりませんよ、それ」

『・・・・・』

「・・・・・」

『・・・・・・・・これでいい。
明るいところで、ちゃんとガラスが残ってないか確認して』

「はい」

『・・・・・・ありがとう。庇ってくれて』

そう言って、ふいっと顔をそむけてしまった

「まだ雷鳴ってるけど、平気?」

『・・・・・・・平気』

「やせ我慢はよくない」

『・・・・・・』

すっと耳に手を伸ばせば
後ろに身体を引かれた

「・・・もしかして、耳弱い?」

『・・・・』

「図星」

『・・・ちょっと、楽しそうな顔しないでくれるかしら』

「そんな顔してませんよ」

『し、してる!!』

「してない」

「相変わらず、仲がいいのはいいけど。追いついちゃったじゃない」

「『!!』」

「何いちゃいちゃしてるのよ、見せつけてくれちゃって。ねぇ」

「本当本当、学校の外では、いつもそんな感じなの?」

『柚晴に千崎さん・・・これはっ』

「そう見えましたか?」

「見えました」

『ちょっとっ!』

「まぁ、そういうことなので、聞かれたらそう答えておいてください」

「了解」

「私、知らなかったなぁ・・・いいこと聞いちゃった」

『ちょっと、的場!!何勝手なこと言ってるのよ』

「こうすれば、少しは虫よけできるでしょう?」

『・・・?』

意味が分からないという顔の明翠の頬摘まんで弄ってやる

「あれ、2人とも懐中電灯は?」

「途中で電池が切れまして」

「椿さんのも?」

『?』

「やだぁ、的場くんったら」

「何の事ですか如月さん」

「懐中電灯は、1人1つって実行委員の人が」

『・・・え?』

「ばれましたか」

『・・・的場。どういうことよ』

「まぁまぁ、明翠。あんたが鈍感なのが悪いってことで」

『・・・・』

「では、お2人さんはごゆっくり。千崎さん、先にゴールしよう!」

『・・・・・・』

意味が分からないという顔で見上げられる
笑ってやれば、『どうして、教えてくれなかったの』と怒ったけれど
その理由が、“2つあれば、どっちかの電池が切れても大丈夫だったじゃない”という
肝試しの醍醐味というのをわかっておらず
また、笑ってしまった



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