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これがいわゆるナンパというやつなのか
適当に受け流しながら、柚晴達が来るのを待った

夏休みも終わってしばらく経ち
久しぶりに中学の友人たちと集まることになったのだ
私以外は、みんな受験生なのに大丈夫なのかと聞いたが
息抜きも必要だから!!と、決行することになった

のに、どうして、私の隣には、的場さんがいるんでしょうか

「来るのが早すぎるんでしょう?」

『お父さんの仕事に時間に合わせたのよ。車で送ってくれるっていうから
 それで、どうして、的場さんは、ここにいるんですか』

「偶然?」

『胡散臭い』

「今後の勉強のために、今日は人と約束をしているんです」

『だからって、ここで待たなくてもいいでしょう!!』

「ナンパされてる明翠が目に入ったから、横にいれば防げるかと思って」

『・・・・た、確かに』

「こんなところに着飾った女1人なんて、格好の餌だ」

『着飾ってない』

「珍しく、化粧もしてるのに?」

『だから、どうしてわかるのよ?!薄くしかしてないのに』

「スカートも短すぎる」

『・・・そう?』

「かわいらしいですね」

『・・・・・・・ナンパみたいなこと言わないでくれるかしら
 もしかして、的場もナンパしてるの?』

「冗談」

妙に敬語で、よそよそしいせいか、
少し上品なナンパみたいだ

『・・・・・・時間いいの?』

「もちろん。お茶でも行きましょうか」

『残念、そこまでの時間はないの。また今度』

「そうですね、では、また今度誘います」

『うわぁ・・・ナンパだ』

「明翠限定ですけどね」

大人との付き合いが増えてきたせいか、敬語が身について来たなと思ってしまう
まぁ、もともとその他大勢に対しては敬語だったけれど

「明翠!」

『柚晴、おはよう』

「ちょっと、何々、的場くんと一緒なんて」

『偶然会っただけよ』

「明翠の偶然は、的場くんの計画通りでしょう?」

『・・・?』

「いえ、今日は、本当に偶然ですよ」

「またまた、そんなこと言って。
 でも、残念、今日は私達とデートだから。明翠、借りていくわね」

「はい、どうぞ」

『・・・・・・・的場のものになったつもりない』

「これから、なるんだからいいでしょう?」

『その言い方は誤解されるからやめて』

「名残惜しいのはわかるけど、2人のところ行くよ」

『な、名残惜しくないっ』

最後まで言い切る前に、柚晴に手を引かれて
その場を後にする
少し後ろを振り返れば、余所を向いていた的場が
ちらりと視線をこちらに向けた

勉強のためか・・・妖関連かなぁ
私も、人から学んだ方がいいのだろうか
生前、祖父から学ぶことは多かったけれど
それ以降は古書からのみだ

軽く手を振れば
軽く返事をくれた







映画館に行って
昼食をとって
ショッピングをして
ケーキを食べて
話に花を咲かせて

気づいたらもう夕方で
柚晴と別れたころには、もう日も沈んでいた

この前のようなへまはしないと
式もちゃんと持っているし
近くの森に雪が来ているのも感じる


『ひゃっ・・・・!』

「夜道で音楽なんて聞いていたら、人が近づいて来ても気づけないでしょう?」

『・・・・・的場、・・・驚かせないでよ』

「随分な荷物だ」

『服とか雑貨とか色々買ったの』

「持ちますよ」

『・・・ありがとう。・・・じゃなくて、なんでここに?』

「偶然」

『違う・・・もしかして、待ってた?』

服の入った紙袋を手渡す途中で触れた的場の手は冷え切っていて、
まさかな・・・と思う

「・・・・そうだと言ったら、どうします?」

『・・・・・』

「偶然というのも、待っていたというのも事実だ」

『?』

「帰り途中の明翠を車の中から見かけたから、少し待っていただけだ
 だから、それほどまっていたわけじゃない」

『・・・そ、そうですか』

「今日は、楽しかった?」

『・・・やっぱり、的場、お父さんみたい』

「嬉しくありませんよ」

家まで送りますと言い始めたので、
遠回りにならないところまででいいと断った
納得のいかない顔をするので、雪がいるからと言えば
わかりましたよ、と息を吐いた


『最近話題になってるらしい、妖ものの映画を見たんだけど、
 それが酷くつまらなくて』

「まぁ、本物が見えますからね」

『それも、そうなんだけど。肝心なシーンに妖が立ってて全然見えないのよ』

「・・・本物が映って?」

『そう。妖ものの映画だったことには、間違いないけれど』

「それはまた、すごい映画ですね」

『ある意味ね』

今日、あったことをぽつぽつと話しながら
夜道を歩く
的場が、今日、誰と会ったのか、何を学んだのか
触れていいのかわからなくて、聞くに聞けなかった

女ばかり集まると自然と恋愛の話しが浮上する
今回も、久しぶりにあったから、いつも以上に盛り上がった
けれど、あまり話していてもピンとこなかった

妹のように、私は自由な恋愛を選べる立場をとらなかった
学校で受けた告白も、貴方に私の何がわかるのと思ってしまう
変な話だ。見えることを肯定しているはずなのに
自然に卑屈な考え方をしている

“的場くんと、まだ付き合ってないの?!”
久しぶりに会った2人には、そう言われたし
柚晴には、いつも言われた
男女の仲が、必ずしも恋愛だというのは間違っているのではないだろうか
そんなことを彼女らに返せば
何言ってるの?という顔をされた

この距離で良いのに
どうして、周りはそうくっつけたがるのだろうか


「どうかしました?」

的場が立ち止まり振り返った

『・・・・・なんでもない』

「何か悩み事なら、相談に乗りますが」

『・・・今日は、丁寧語が多いのね』

「あぁ、最近癖になってきた。気になる?」

『・・・気にしないようにします』

「まぁ明翠には、こんな風に話してなかったから
 ・・・気になるなら、嬉しいことだ」

『・・・・・・・・・』

「自分は、周りと違って、少しは特別に見てもらえている」

『・・・・・・・・』

「違いますか?」

『・・・・・・・・そ、そんなことっ』

「こうして待っているのも送ってくれるのも、特別だから」

『・・・・』

「幼馴染だから」

『・・・・違うの?』

「さぁ、どうですかね」

『・・・・・・私、』

「考えて」

『・・・・・・・』

「考えないようにするのが特技でしょうけど
 おれは、ちゃんと考えて欲しい
 明は、馬鹿じゃないし、天然なわけでもない」

『・・・・・・・・』

「理由をつけては、逃げて
 全部考えなければ傷つかないなんて、そんな甘い考えは捨てた方がいい
 今まで全部ため込んで、それで本当にいいと思ってるんです?
 だとしたら、そのうち壊れますよ」

『・・・・・・・』

「少し、苛めすぎましたか?」

『・・・・・・・』

「・・・帰りますよ」

『・・・・・このままじゃ、だめなの?』

「おれは、いやですよ」

私が答えられないのをわかったうえで
遠回しの言葉を選んでくる

自惚れと言われようが、今までの行動を思い返しても
幼馴染の括り以上があったのは、確かだった
でも、それをそうと考えないように気づかないようにしていた

なぜ?
だって
私は、問題児で嫌われ者じゃないか

幼馴染じゃなければ
隣に並べない
こんな妖の血を被った人間なんて
的場の隣にいられない

「帰りますよ」

『・・・・・・』


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