14 縁側に座ったまま寝てしまっていた。目の周りが妙に引きつったのは、きっと泣いていたからだ。こんな無防備な状態でも襲われないなんて・・・もしかして、母の刀が護ってくれたのだろうか。右手に持ったままだった短刀を握りなおした。なんだか懐かしい夢を見ていた気がする。寂しいのに、心が温かくなるような、そんな夢だった。 『戻らないと』 戸締りをして玄関へ向かった。短刀だけは持って行くことにした。この家は、そのうち壊してもらうことにしよう。蔵は中身を移動させて改めて結界を張りなおそう。そう決めて家を出た。階段上から見える景色は何も変わっていないのに、私の家だけが別の時間を過ごしていたような不思議な気分だ。 前に来た時と違って、随分と気持ちが落ち着いている この身で感じた血の臭いも感覚も見たもの全てを忘れることなんてできない。的場が言うように私が自分を責める必要はないのだとしても、もう後悔はしたくない。じゃぁどうしたらいいのだろうか。もう少し的場の言うことを聞いたらいいのだろうか。・・・どれにしろ、ひとまず自分を元の状態に戻さなければ何も始められない。柚晴たちに会えるように、そうだ夏目くんにもお礼を言いに行きたい、それから的場に応えられるように・・・・・ 1人で来て正解だった 的場がいると私は・・・ 「遅いから迎えに来ましたよ」 『・・っ?!仕事は?』 「思ったより早く片付いたんです」 階段を上がる音に気付いたのと同時に的場の声がして慌てて顔をぬぐって振り返った。随分ラフな服装で、仕事から直行したわけではないことに安心した。訝しむようにではなく、ただ安心したと言うように私の様子を見て目を細めた。 『着替えて来たの?』 「明翠が1人で出かけたというので慌てて」 『傘は?』 「・・・忘れました。まぁ、今は時期じゃないから問題ない」 『そうだとしても』 「そんなに心配することじゃない」 『心配することでしょ!』 「・・・・・」 『的場、私、自分のこと鍛えなおすから』 「・・・・」 『もう何もないんだし、祓い人として生きていくためには、遅れた分を取り戻さないと』 「明翠は祓い人になるべきじゃない」 『・・・的場は過保護すぎよ』 「おれは明翠が妖から離れるのなら傍にいられなくてもいいと思う」 『・・・・』 「ここから離れて、全部見ないふりをして生きてくれたら、いっそここでのことも全部忘れて普通に生きてくれたらとさえ思う」 『ありがとう的場、でもそれはできない』 「なら、おれの傍にいてよ」 『・・・・』 笑っていない片目が私をじっと見ている 言葉の意味をどうとるべきか必死に考えるが、射貫かれるような視線に動きも思考も止まってしまう 「おれの言いたいこと伝わってます?」 『一門には入るわ。もともとそのつもりだった』 「そうではなくて。あぁもちろん、明翠には一門に入ってもらわなくては困る」 『・・・・・・』 「数日見ないうちに随分と顔色が良くなった。表情も違う・・七瀬と何を話したんですか?」 『女同士の秘密の話』 「おれには言えないこと?」 『そうかもしれない、でも・・・そのうち話すから、もう少し待って。あ、そうだこの家ね』 「明翠、おれはもう待つのはやめることにした」 『え?』 「またいついなくなるかわからない幼馴染を一方的に思うのも疲れたので、あの距離はおれが詰めることにした」 『・・・縁側の?』 「そう、あの時の。だから、ただの幼馴染でいるのはもうやめたい」 『・・・的場、だから』 「だから、待たないって言っただろ」 すぐ近くて的場の声がした ←→ 目次 |