平凡とともだち


「平凡を絵に描いたような奴だな」とよく言われる。
混血の家系に普通くらいの魔力を持って次女として生まれ、ホグワーツに入学し、全ての教科において可もなく不可もない成績を取り続けている。
ルームメイト、兼ホグワーツでの二人目の友人からすれば、「苦手科目も得意科目もないのは、逆に普通じゃない」らしい。
そんな彼女は呪文学がすこぶる苦手であった。ペアを組むとほぼ間違いなく謎の爆発に巻き込まれるものだから、知っているグリフィンドール生はその時だけは彼女を避けて座った。
そうして、呪文学のあとは毎度どこかしら火傷を負う羽目になるのが私であった。おそらく、同じ寮の、大して親しくない人からすれば私の印象などそんなものだと思う。
今日もまた、そんな日だった。引き寄せ呪文を唱えたはずの彼女の杖先からはよくわからない煙が立ち上り、いくらなんでも身の危険を感じた私は咄嗟に「アクシオ、な、なんか盾になるもの!」と投げやりに呪文を唱え、うっかり成功させて教科書を引き寄せた。
それが偶然フリットウィック先生の目に留まって、お褒めの言葉を賜ろうとした瞬間、やはり目の前の友人は爆発騒ぎを起こして、教科書ごときの防御はあえなく吹き飛ばされた。運が悪かった、今日は医務室行きだ。
医務室に行けばマダム・ポンフリーは「またミス・スミスの呪文ですか」とぷりぷりと言ってきた。呆れ顔である。そりゃあまあ、一年のころから同じ理由で定期的に医務室に来ていれば覚えられるというものだ。(スミス、というのは友人のファミリーネームである。アメリア・スミスだ)
とはいえ、最近はアメリアの呪文の具合もいくぶんかましだったので、ここに来るのも久しぶりだ。今日は先客がいるらしく、一番奥のベッドのカーテンが閉まっていた。
なんとはなしにその様子を見ていると、マダムが「ああ、ミスター・ルーピンですよ」と手当の準備をしながら言った。なるほど、彼か。
先ほどアメリアがホグワーツに来て二番目の友人と言ったが、一番目の、初めて喋った友人、というのがリーマス・ルーピンである。一年生の時コンパートメントで相席して以来、挨拶をしたり、ぽつぽつと会話を交わすくらいには仲良くしていた。
「少し様子を見ていっても?」と尋ねると、珍しく渋ることなく「構いません」と返事が返ってきた。手当に対しお礼を言って、奥のベッドへ近づく。すると、こちらの会話が聞こえていたらしく、奥でリーマスがカーテンを開けた。

「やあ、そろそろ来る時間帯かなと思っていたよ」
「ご機嫌いかが、リーマス。それはアメリアに失礼じゃないかな」
「あはは、そうだね。でも、君も僕くらい常連になってるじゃないか。スミスの呪文、上達してなさそうだね」
「まあね。最近は大分ましだったんだけど……昨日、彼女、ボーイフレンドに振られたから、たぶんそれで」
「ああ……レイブンクローの先輩だっけね。なるほど、精神的に参ってたわけか」

他愛ない会話に興じるだけの元気はあるらしいが、リーマスの顔色はやはりよくない。マダムが奥に通してくれたんだから今は落ち着いているのだろうが。
ローブのポケットをごそごそと探ると、数個チョコレートが入っていた。リーマスの手の上に出してやると、ぱあ、と顔を輝かせる。

「リズ……君って最高だよ」
「リーマス……君って本当に現金な奴だ」
「いやいや、本当に。次はスリザリンとの合同授業だったろう?ジェームズたちはしばらく来れないだろうと思ってたし、僕、そろそろ甘いものが欲しいなって思ってたんだ」
「アー…まあ、彼らは来たとしてもマダムに通してもらえるか怪しいけど」
「まったくだね」

彼らと友人なリーマスの手前、さすがに絡まれるスリザリン生におおっぴらに同情はしなかったが、なるほど。次の授業は騒がしくなりそうだ。
そこで次の授業の存在を思い出した私は、教科書を取りに行く時間も考えたらあまりこのまま喋っているわけにもいかないことに気が付いた。
きっと顔に出ていたのだろう。リーマスは「ああ、いってらっしゃい。僕も午後からは出ないとな」と、やはり青白い顔で弱々しく笑った。

「じゃ、今日は授業が終わったら、談話室で紅茶でも淹れて待っていてあげよう」
「随分大サービスだね」
「リーマスが淹れた方がおいしいけど、たまにはありかなって」
「そっか……ありがとう。楽しみにしているよ」

それからマダムに挨拶をして、医務室を出た。お茶請けは何にしようか。休暇明けでいっぱいお菓子を持ってきたばかりだから、そこそこストックはある。
そんなことを考えながら、次の授業へ急いだ。