平凡とおおかみ


「……リズは、かっこいいと思ってくれるかい?」
「え?」

____「賢くてリーダーシップもある男の人ってかっこいー!」って、なるかもよ

9月1日、キングズクロス駅。私は、いつだったかギルに言ったことを思い出していた。かくいう彼とは先ほどまで立ち話をしていたし、なんなら監督生に無事就任したことを嫌というほど自慢された。それで、私の方にリーマスがやってきたことに気がついた瞬間、「じゃ、アメリアのところに行ってくるぜ!」と走り去ったのである。私より先にアメリアには監督生になった報告をしていたはずだし(彼らは家が近所の幼馴染であるし、ギルのことだから監督生バッジ入りの手紙が届いた瞬間アメリアに見せに行っているだろう)、どうせ私だってアメリアのとこに行くんだから一緒に行くつもりだったのに_____なんていうのも、今のリーマスの言葉で吹き飛んだ。ギルはきっと気を遣ったんだ。誰に? リーマスに? それとも、私に?
5年生に上がって初めて会うリーマスの胸元には、監督生の証がきらりと輝いていた。

「わ、リーマス監督生なの!? おめでとう!」
「はは、あいつらの抑止力になって欲しいんだろうね。……僕一人には荷が重いんだけどなぁ」
「なに言ってるの、リーマスが素敵な人だからだよ! そうだよね、君以上の適任なんてそうそういない!」
「きみは、本当に、僕を喜ばせるようなことばかり言うね……」
「いや?」
「ううん、大好きだ!」

リーマスが無邪気に告げるものだから、一瞬あの日の告白を思い出して反応が遅れてしまった。「あ、」間抜けな声が喉から飛び出して、おそるおそる目の前の彼を伺うと、にっこりと笑みを深めてこちらを見ている。

「いやあ、新学期早々幸先が良い。やっぱりストレートな言葉の方が良いのかな?」
「ええと、リーマス?」
「僕の周りで一途に恋してるのってジェームズくらいだからね。あれを参考にして良いものかずーっと迷ってたんだけど……うん、よし」

ぽん、と手を叩いて、それからリーマスは「行こうか。荷物上げるの手伝うよ」と片手で私の荷物を奪い、もう片手は腰に回し……………腰に手を、回し、た。

「リーマス!?」
「どうしたの? このくらいの距離で話すことは普通にあったろう?」
「いや、腰を抱かれて歩いたことはさすがにないかな……!?」
「そうだっけ? まあでも、別に良いよね?」
「えっうん……!? そうだね……?」

丸め込まれた。わかっているけど、いまいちこれといって拒む理由もなかったのでされるがまま。そのままアメリアのとってくれているコンパートメントに荷物を積んでもらう____件のアメリアはおそらく今ギルに捕まっていることだろう。不在だった。

「せっかく久しぶりにリズと顔を合わせたんだから、もう少し話していたかったんだけど……監督生は監督生用のコンパートメントがあるから、そろそろ向かうよ」
「うん、がんばれ! ……そうだ、リーマス!」
「なんだい?」
「言い忘れてたけど、監督生のリーマスもかっこいいよ!」
「は、………う、あー! もう、きみは!」

急にそんなこと言わないでくれよ! と心なしか頬を赤らめたリーマスに、よっイケメン! 優男! と適当にヤジを飛ばしていたら軽く頭をはたかれた。じとりとこちらを見るリーマスにごめんごめん、と軽く謝る。「……はあ、もう行くけどさ、」 リーマスの言葉を待っていると、ふわりと私の髪の毛が一房、彼の手にさらわれた。

「きみってやつは本当にズルい」
「可愛い仕返しじゃんか」
「…………ああ、そうだね。リズは直球に割と弱いみたいだから」
「ごめんあそばせ! 美男美女の皆様方と違って慣れてないんです!」
「うん、だから_____今年は覚悟してて」

夢中にさせられるように頑張るね。そう言って、リーマスが私の髪の毛に口付ける。キザなことをする割に少しぎこちない動作も、愛おしげに細められた目も、告げられた言葉も。その全てに照れてしまわずにはいられない。なんとなくバツが悪くなって、「あっそ!」と言って彼の背中を押した。くつくつと喉を震わせる音が聞こえる。わしゃりと私の頭を撫でてから、リーマスは離れていく。
どうやら今年は、随分とおおかみさんに振り回される一年になりそうだ!





fin.