平凡とハロウィン


「あ、おはようリズ。早いね」
「おはようリーマス。そっちこそ」
「今日は他を叩き起こす必要がなかったからね」
「ああ、そういえば、他の三人は?」
「すぐにわかるよ」

リーマスがそう言った瞬間、大広間中に爆発音が鳴り響いた。大きな音に女子が悲鳴をあげ、全員音の鳴る方へと視線をやる。
注目を集めた出入り口から、満を持してふた振りの箒が飛び込んでくる。

「レディース、アーンドジェントルメーン!」
「俺たち悪戯仕掛け人から、ハロウィンのお知らせだ!」

いたずらっぽい笑みを浮かべたポッターとブラックが、大広間を飛び回り、杖を振る。多種多様なお菓子の雨が降り注いでいた。
思わず両手を皿にしてキャッチしていると、ちょうど傍に飛んできたポッターがなにやらリーマスに合図をしたあと、私にも「ハッピーハロウィン!」と言って大きめのチョコレートを落としていった。エヴァンズの前でもこうして普通にしていた方がいいんじゃないかな。
お礼を言う間もなく彼は飛び去り、横ではリーマスが杖を出している。
なにやら呪文を唱えて、大げさに一振りすると、リーマスはやっぱり、にやり、と笑ってみせた。大広間の向こう側でペティグリューが杖を持っているのも見えたから、空と地上とで分かれて呪文を使う算段だったに違いない。気が付くと、リーマスとペティグリューの杖先からなにやら細く雲のようなものが立ち上っている。

「……!?え、な、なにこれ!」

大広間の空には大きな雲が現れていた。いや、雲ではない。これは、コットンキャンディー!
思わず目を輝かせていたのだろう。私の反応を見て、リーマスはまたくすくすと笑う。こうして見ると彼もなかなか整った顔立ちをしている方なんだなあと思う。いっつも青白い顔をして、ブラックみたいなド級のイケメンのそばにいるから気が付かなかった。

「すごいでしょ?これは、僕の案!」
「うん、リーマスらしいや!こんなに大きいコットンキャンディー、かみついたらどんな味がするんだろう……!
「そうそう、リズならそういってくれると思った!大きいコットンキャンディーに埋もれながら、甘い味堪能したいよね!」

そういって杖をもう一振り。雲はふわりと解け、みんなのもとに舞い降りる。私のところにも。

「最後の仕上げだ!」

ブラックの声を皮切りに、広間中に飛び交うコットンキャンディーが一斉にパチパチと弾け、視界を彩った。すごい、すごいと歓声が上がる。勿論、私もその一人だ。
先生方も楽しんでいたようだったけど、それはそれらしい。頬の緩みを抑え切れていないマクゴナガル先生にしょっぴかれていくポッターとブラックは、完全にやりきったと言いたげな満足顔。いつの間にかペティグリューはどこかに消えていたし、リーマスは集めたコットンキャンディーを私に渡して、口の前で指を一本立てた。それから、そそくさと大広間から抜け出していく。器用なやつだ。
思いっきりかみついたコットンキャンディーからは、優しい味がした。