おおかみと友達


「やあやあリーマス!罰則を受ける僕らをほっぽいて女の子とイチャイチャするなんていいご身分じゃないか!」

ハロウィンに起こした騒ぎについて罰則を受けてきた3人(ピーターは逃げている道中に結局先生に捕まったらしい)が部屋に帰ってきた。そして、ジェームズは開口一番これだ。僕はといえば、リズと別れた後適当な生徒の波に混じって寮まで戻ってきて、仕掛け用のあまりのお菓子を悠々と独り占めしていたところだった。せっかくのいい気分がすこし害された、と、ジェームズにじとりと視線を送る。

「イチャイチャ?リーマス、ガールフレンドがいたのか?水臭いじゃねえか!」
「ええ!?そ、そうだったの……!?ごめんね、いつも、課題、時間取らせちゃって……」
「グリフィンドールのリズ・サティさ!今朝もお菓子に託けて、」
「ああ、もう、ジェームズ。違うって言ったのに、誤解を招くようなことを」

ジェームズは至極楽しそうな顔をしている。僕一人罰則から逃れた意趣返しだろうが、こればかりは困る。リズはとっても「ふつう」の子だから、こうやってからかわれて噂にでもなったら、おそらく距離があいてしまう。せっかくここまで仲良くしてきたともだちと、そんなことで話さなくなるのは寂しい。もっとも、それがなくたって僕は………いや、これは、考えないことにしよう。彼女は純粋に僕が病弱な少年なんだと思っていてくれているはずだ。今までも、これからも。
目の前ではシリウスとピーターが好奇に満ちた顔をしている。浮いた噂一つなかった僕に「そういう」女の子がいるというのが面白いのだろう。実際のところ、僕は誰かを好きになることも、誰かとお付き合いすることも、する気はないし、あってはならないのだから、浮いた話がないのは必然なのだ。

「……友達だよ。会えば挨拶をするし、世間話もするし、リズは人並みに、アー、その辺の女の子レベルで甘いものも好きだから、だいたい食べ物の話をしてる………ふつうの友達だろう?」
「リズ?リズ・サティ? ああ、ええと、よく爆発してる」
「うん、そうそう。スミスの爆発に飲み込まれてる子」
「あー………なるほどな、あの、地味めの。確かにあれは、ガールフレンドにする、って感じでもねえな」
「シリウスの周りの子が派手なんだよ。リズはふつう。だからこそ、居心地良いんだけど」
「う、うん………普通の子だよね。前、魔法薬学で中身ぶちまけた時に、片付け手伝ってくれた子、でしょ?」
「そうそう、懐かしいね。僕とピーターでやると、なんでか毎回変な薬が出来上がるもんね」
「お前らが分量と手順間違えるからだろ」
「あっ、そうだ! 僕、補習…………」

ピーターが真っ青な顔だ。そういえば、昨日は補習授業がある日だったような。行くのを忘れてたのか。

「あはは、次の授業が楽しみじゃないか」
「ひ、ひどいよリーマス!教えてくれたってよかったじゃないか!」
「僕は昨日はきちんと提出できたからね。補習、なかったんだよ」
「そんな……!」

話が逸れたことに心の中で胸をなで下ろす。ジェームズは流してくれる気はないようでこちらをじーっと見ているが、涼しい顔で無視してやった。僕は彼女にそういう気持ちは全然ないし、彼女も僕にそういう気持ちは全然ないのだ。変に頭を突っ込んで掻き回すのはやめてもらおう。彼女が僕の秘密に気がつくまで___もちろん、気がついてほしくはないが___いい友達でいさせてほしい、それだけだ。彼らのように、すんなりと僕が人狼だってことを認めて、あまつさえ、対等な友人として仲良くしてくれるなんて思ってない。彼女は、「ふつう」の女の子だ。

「君も大概食えない奴だね」
「もう4年目にもなれば、よーくわかってたことなんじゃないかい?」
「……君が、君の秘密を理由に恋を遠ざけてるんじゃないか、って思ってたから、正直嬉しかったんだけどな」
「生憎、あまり恋愛沙汰に興味のあるたちじゃないんだ、もともとね」
「そう。じゃあそういうことにしておいてあげよう」

余計なこと言わないでね、ジェームズ。念を込めてにっこりと笑えば、ジェームズは一瞬引き攣った顔をした。
シリウスとピーターはきょとんとした顔をしていた。