平凡と事故


「聞いてよリズ!彼ったら、」
「はいはいアメリア、一応聞くけどそれはどの“彼”?」
「変わってないわよレイブンクローの彼よ!」
「別れたんじゃないの?」
「別れたくらいでこの愛がさめるもんですか!ブラックレベルのイケメンに言い寄られてるならまだしも!」
「ああ〜、うん、ブラックの顔に言い寄られたら大体の男は忘れちゃうわぁ。観賞用の顔の究極系みたいな存在だもんね」
「顔以外もでしょ!?成績優秀だし両家の長男であることを鼻にかけず血筋分け隔てなく接し、」

これは長くなりそうだ。レイブンクローの彼の話はいつのまにかほっぽかれている。私もブラックの顔は大変好みであるわけだが、類は友を呼ぶというか、アメリアを始めとしてブラックファンは友人にいっぱいいる。割と過激派な方の子も。(ファンクラブなんてものがノンフィクションだとは思わなんだ、とか思ったっけ。イケメンは万国共通の宝だ)
しかして、時間が待ってくれるわけではない。アメリアは大分ヒートアップしてしまっているが、次の授業は魔法薬学だから早く移動しないと。地下まで降りるのは割と骨だ。喋り続けるアメリアを引っ張って移動を始めることにする。
なんとか間に合いそうだ。適当に相槌を打ちながら、階段を一つ飛ばしで降りていく。後ろからアメリアの「ちょっと、危ないわよ!」という声が聞こえる。
大丈夫大丈夫、もうホグワーツも4年目ともなれば、今更階段を踏み外したりなんか……………しない、と、そう口にしようとした時だ。

ずるり、

足を滑らせて前につんのめる。やっべ、目の前に歩いてる人いるんだけど巻き込んで転んだら怒られるかな?うわースリザリンの人じゃないといいな〜!なんて考え始めていた私は、自分が魔女であることをすっかり忘れていたのだ。また、アメリアが魔女であることも。

「ウィンガーディアム・レビオーサ!」

背後から焦ったアメリアの声が響く。ここで思い出して欲しいことが一つあるのだが、アメリアは呪文を使うのがとにかく苦手なのだ________それは、一年生の頃から今も変わらず、謎の爆発を起こして私を医務室通いにさせるくらいに、だ。
やばい。
脳が警鐘を鳴らす。今背後から爆風を受けようものなら、転ぶどころか階段から転げ落ちて頭を打って死んでしまうんじゃないか!?

爆発音が鳴り響く。授業中に落ち着いて成功させることもできない呪文がこんな風に慌ててやって成功するわけないのは明白だった。ぎゅっと目を瞑って衝撃に備える……………「アクシオ!」「プロテゴ!」…………が、一向にそれはこなかった。
私の体は何か強い力で引き寄せられ、誰かにぶつかって止まった(「うわっ!」)。目の前では盾の呪文で生み出された障壁が爆発を弾き飛ばしている。_____助かっ、た? というかむしろ、アメリアは無事なんだろうかこれ。いつもより爆発ひどいけど。

「はー、び、びっくりした……まじびっくりした本当に年貢の納め時だと思った」
「僕もそう思ったよ」

呆然と口走っていると、すぐそばから言葉が返ってくる。_____床が生暖かくて柔らかいと思ったらこれ、私を引き寄せ呪文で救ってくれた人の上だ。聞き覚えのある声に顔向けるとリーマスだった。片手に杖を持って、片手を床についている。
目の前ではブラックが杖を構えていたから、たぶん盾の呪文を唱えたのは彼なんだろう。

「あー、ありがとう、リーマス。君は命の恩人だよ」
「こんな事故を起こさないようにするためにも、足元には気をつけて歩くんだよ」
「そうするそうする。肝に銘じる。………あと、ブラックも、ありがとう。ごめんね、私がうっかりしたせいで____ええと、二人まで命の危険に晒しかけた」
「本当にな」
「アー、ウン。ごめん。今度何かお礼するよ……」
「いらねえ。つーか、いつまでリーマスの上にのってんだよ」

「「あ」」

二人して声をあげて顔を見合わせる。そういえばリーマスに助けられた時のままだった。なんとなくおかしくて吹き出すと、正面でリーマスもクスクス笑っている。

「通りで床が未だに柔らかいなと思った!」
「僕もそういえばなんでまだ座ってるんだったっけと思ったところだったよ!」

なんだか可笑しくてたまらなくて二人してそのまま腹を抱えて笑っていると、脇でブラックが目を白黒させている。口をはくはくと物言いたげに動かしたあと、眉間に皺を寄せて「なんなんだお前ら!!!」と一声あげて私の首根っこを掴ん、掴んだ!
ぎょえっと情けない声をあげて、そのままブラックに放り投げられる。(「女の子にその扱いはないんじゃないかい、シリウス」「お前もおかしいけどあいつもおかしい!普通じゃねえ!」「返事になってないよ」)尻もちをついた先は床が焼け焦げており、真ん中に半泣きのアメリアが蹲っていた。_____真ん中に?彼女の呪文は確かにひどいが、杖を向けた方向以外に飛んで行くほどのじゃじゃ馬ではなかったはずだ。

「リズ〜〜〜〜〜!!!よ゛がっだぁぶじだっだの゛ね゛〜〜〜〜〜!!!」
「リーマスとブラックのおかげでね。アメリア…………何が起きたの……………」
「爆発で壊れたから修理しようと、」
「オッケーわかった。間違いなくそれは君がやろうとするべきじゃなかったね!」

私が必死に杖を振って隠滅しようとしているのに気がついたリーマスとブラックが一緒に呪文を唱えてくれた。「手馴れてるね」と声をかけると、「ご想像にお任せするよ」とにっこり微笑むリーマスと、バツの悪そうな顔で目をそらすブラックが見えたので、悪戯仕掛け人って大変だなと思った。ちなみに魔法薬学には遅刻した。