平凡と縮み薬


「なんか最近、リーマスと喋る機会増えた気がする」
「…………そういえば、そうだね。4年目にもなって」
「変な感じ。なんだかんだ言って、授業でペア組むのも初めてだ」
「そうだね。僕、魔法薬学は得意じゃないからよろしく」
「私も、普通だよ」
「君はなんでも普通じゃないか」
「悪うござんした」
「怒らないでよ」

二人組にならなくてはいけない時、大抵リーマスはペティグリューと組んでいるのだけど、あまりにも………ええと、薬の出来がお粗末なものだから、先生が見かねてリーマスとペティグリューを離したのだ。とにかくドジを踏む補習常習犯のペティグリューのペアとして白羽の矢が立ったのは、呪文を使わない授業であれば素晴らしい成績と呼べる、私の友人、アメリア・スミスだ。要は私はその巻き添えを食らってリーマスと組んでいるわけである。

「リーマス、それまだ入れないで」
「え、次これじゃないのかい?」
「色が変わってから____えっ、ていうか、これ何」
「何って、刻んだ、」
「みじん切りにして欲しいんだけど」
「したよ」
「してないよ! これぶつ切りって言うんだよ!」
「えー」
「えーじゃないよね、繊細そうな顔して大雑把だねリーマス」

斜め前の席で作業をしていたポッターが急に振り返って「わかる、すごくわかるよ」と深く頷いた。そのペアのブラックもつられて振り返って、それから、私の顔を見て苦い顔をした。なんでイケメンに顔見られて早々そんな表情されなきゃいけないんだ。顔は好みなんだ、やめてくれ。
なんとか大雑把なリーマスを御しながら薬を完成させた。無色透明になるはずなのに、微妙に濁った色をしているが及第点だろう。アメリアとペアの時よりはそりゃあ出来も悪いし遅かったけど、なかなか健闘したほうだ。

「凄い、リズ………普通だ普通だなんて言ってごめんよ。きちんと、完成した……!」
「リーマスの普通の基準が低いんだよなぁ」

そういえば、と後ろを振り返ると、丁度「うわぁぁああ!」と悲鳴をあげるペティグリューと目があった。手には、今日作った薬を移した試験管。誰かが杖を抜いた。「ステイ、アメリア!動くな!絶対に動くな!」思わず叫んだ。ポッターが噴き出した音が聞こえた。「危ない!」というリーマスの声が聞こえて、目の前に出てきた傷だらけの腕を_____私は思わず、はたき落とした。
「え」という誰かの声が聞こえて、私は自分の腕に思い切り薬がかかるのを感じた。幸い殆どローブで受け切れたが、左手も被害は免れなかった。ローブの一部がじわじわと縮み始め、窮屈になったから脱ぎ捨てる。徐々に縮んでいるであろうグロテスクな左手を見る勇気はなかった。
先生が「大丈夫か」と寄ってくる。ペティグリューは怯えた顔で平謝りを続けているし、アメリアは呆然とした顔で杖を仕舞った。賢明な判断だ。

「リーマス、大丈夫?」
「_____あ、ああ。僕は、どこにも………違う!自分の心配をするべきだろう!」

真剣な顔で少し声を張ったリーマスに一瞬びくりと肩が跳ねた。そんなに怒ることないじゃないか。だって、そんな傷だらけの腕に変な薬品が_____アメリアがついていたから、そんなに大変な出来にはなっていないと思うが_____かかったら、痛いかもしれないし、治りが悪くなるかもしれない。それに、なんだか、最近はいつにも増して顔色が悪い。また、体調を崩しているのかもしれないとおもったら、つい。そんな言葉は口には出さなかったが。
先生がすぐに対処してくれたおかげで、私は小さくなった自分の左手を見ずに済んだ。ペティグリューは授業が終わってからも相変わらず申し訳なさそうな顔をしていたけど、「大丈夫だよ」と何度か言うと、ホッとしたようで、ポッターとブラックのあとを小走りで追いかけていった。リーマスはなんだか不機嫌そうな表情で、私にまだもの言いたげにしていたが、顔色は蒼白だった。有無を言わせず医務室に押し込む、女の私の力にさえ抵抗するのが億劫そうだった。道中、「ごめん、風邪を引いたのかも」「またか、って思った?でも仮病でもうそでもなくて、」とか、うわごとのように私に対して謎の弁解を始めた。よくわからないが、私に対して何かやましいところを抱えているのかもしれない。「何か私に隠していることでもあるなら、君の体調がしっかり戻ってから聞くよ。ほら、ゆっくり休みなよね」とマダム・ポンフリーに受け渡して、次の授業に向かった。