平凡とねずみ


「ね、ねえ、サティはさ、リーマスと、仲良いよね」

放課後の談話室でペティグリューに突然声をかけられたものだから、なんの前触れだと一瞬戸惑ってしまった。リーマスは医務室だし、ポッターとブラックはさっき廊下でフィルチに糞爆弾を投げているのを見たから、ペティグリューは今こうして一人でいるわけだろう。それにしたって、珍しいこともあるものだ。今日の昼間に縮み薬をうっかり被らされて平謝りされたのは記憶に新しいが、基本的に彼は積極的に私に、そもそも女の子に話しかけに来るタイプじゃなかった。

「? うん、そうだね。ペティグリューたちほどじゃないけど」
「好きなの?」

ああ、なんかこの流れ、デジャビュ。1年の時にアメリアに聞かれて、2年、3年の時は同室の子や授業で一緒になった子に聞かれたりしたっけ。4年に上がってからは、ポッターが仄めかすようなことを言っていたはずだ。みんな色恋の話が大好きだなぁ、私もだけど。ただ、自分のは勘弁だ。

「ええと、恋愛の話なら、特には。友達としては、好きだよ。リーマスみたいに気安い男友達他にいないな」

特に嘘をつく必要もないので、率直に答える。

「そっか………ねえ、リーマスは、とっても優しい、素敵な人だよ。ちょっと、色々あって、少し自分に自信がないだけで、さ」
「うん、そうだね。知ってるよ。私は私なりに、リーマスと友達やってきてるから」

話の意図がわからない。ペティグリューと殆ど喋ったことがないから勝手がわからないというのもあって、なんとなく居心地の悪さが募った。ああ、渦中のリーマスくんはどうして医務室に行っているんだ!

「だから、だからさ、お願い、リーマスのこと、嫌いに、ならないでね」
「………どうしてそれを、ペティグリューがお願いしてくるの? それに、急にどうしたの?」

私はさらに首をかしげることになる。余程ひどいことをされない限りはあまり人を嫌うということはしたくないので、素直にうんと頷いてもよかったんだけど、なんとなくそれじゃ腑に落ちないのだ。ペティグリューの不可解な行動が。これが、ポッターがやっているならからかわれているのだろうか、とか、何かに巻き込まれようとしているのだろうか、とか勘繰りようもある。ただ、愚直そうな、というか少しのろまそうな彼に謎の言葉をかけられているこの状況は、いまいちそうとは取りづらかった。ペティグリューもまた、悪戯仕掛け人の一員としてもだ。
眼前のペティグリューは必死に言葉をひねり出して、選んで、構築しているようで、うんうんと唸っていた。そして、意を決したようにこちらを見据える。

「リーマスは、正直じゃないところがあるって、いつもジェームズが言うんだ。リーマスも、そうだね、僕は嘘つきだ、って。嘘をつくのは悪いことだね、って。だから、」
「私がリーマスに嘘をつかれているなら、それは必要な嘘なんじゃないのかな。意味もない、人を傷つけるような嘘をリーマスがつかないのは、誰より君たちが知ってるんでしょう」
「………うん」

つい最後まで聞かずに遮ってしまったことに罪悪感を覚える。だって、要領を得ないんだもの。

「リーマスが何か言ってたの?」
「さっき、医務室に様子見に行ったんだ」
「あの状態のリーマスによく面会許されたね」
「う、うん。それで、ここに着く前、リズに変なこと言ったかもって、気にしてたから」
「そう。………大丈夫だよ、って、リーマスにあったときに言っておいて」

体調が悪い時に、変なことを口走るのなんかよくあることだと思うのだが、心配性だなぁ。

「わかった!……あの、サティ、」
「何?」
「ジェームズは、リーマスにようやく春が来たのか、とかからかったりしちゃうし、シリウスは、もしかしたら、感じ悪い態度、取ってるかもしれないけど、あの…………ぼ、僕、サティが、リーマスの友達で、よかったと、思う!」

それじゃあ!と満足げに言い逃げするペティグリューをぽかんと見送る私は、それはもう間抜けな顔をしていたことだろう。彼が悪戯仕掛け人の____というか、ブラックとポッターの金魚のふん扱いされているのは周知の事実だが、では、リーマスとは? 対等な友人関係? そんな彼にこう言われるのはどういうことなのだろう。これは、褒められたということでいいんだろうか。
ピーター・ペティグリュー、よくわからない男だ。