SSS

2017/05/22

御髪とねじれ

「ねえねえあなたは髪の毛を操っていたけれど、切れちゃった場合はどうするの? 切れた髪の毛も操れるの? それにとっても髪が長いのにすっごく綺麗。なにか特別なお手入れでもしているの? ねえねえ答えて気になるの」

 雄英高校に入学した初日。入学式もガイダンスもスキップして行われた体力テストが終了したと思えば、出席番号が俺のひとつ前の子に話しかけられた。いや、話しかけられたというよりは一方的に質問攻めされた。マシンガントークと形容するのがふさわしい饒舌っぷりに、一瞬状況が飲み込めず呆然とする。

「あー……髪が切れたら稼働範囲が狭くなるけど、伸びるのが早いからあんまり問題ねぇな。切れた髪の毛も一応操れる。耐久は質に比例するから髪の手入れにゃ気を使ってるよ。特別なことってほどてもねーけど」
「そうなんだ! 答えてくれてありがとう!!」

 質問を一つずつ思い出して答えれば、目を輝かせながらお礼を言ってくれる。見た目はそうでもないのに、中身は存外子供みたいだと思った。ニコニコ笑う彼女を見ていたら、不思議ととこちらの口角も上がりそうになる。

「そういえば自己紹介がまだだったね!私波動ねじれ、よろしくね!!」
「濡烏御髪、よろしく」

 差し出された右手を軽く握り返す。これが二年後にビッグ3の一員と呼ばれるようになる波動ねじれと、俺の最初の出会いだった。
2017/05/20

食満と志雪

「生駒志雪」

 唐突に呼ばれたフルネームに思わず反応する。どうしたんですか? と問いかければ、食満先輩はああいや、とこちらに顔を向けた。

「綺麗な名前だと思ったんだ。お前によく似合う名前だな」

 はにかみながらそう言うものだから、嬉しさと恥ずかしさがこみ上げてきて溢れそうになる。ありがとうございますと返した時、私の顔は赤くなっていなかっただろうか。
2017/05/20

銅橋と真夏

「また退部させられたって?」

 緑色の頭に、縦も横も他人より一回り以上はみ出ている姿は、生徒の多い廊下でもよく目立つ。手元を見れば、恐らく提出するのは三回目になる入部届けが握られていた。

「俺は真面目にやってんだ。間違ってんのは先輩たちの方なんだよ」
「でもそれで手が出て辞めさせられたら、元も子もなくなっちゃうよ」
「俺は、間違ったことはしてねェ」

 迷いのない真っ直ぐな声で言い放つ。銅橋はいつも、自分の中の正義を信じている。たとえそれが、周りから鬱陶しいと思われているものでも。

「愚直だなぁ」

 行ってしまった背中に呟いた独り言は、廊下の雑踏にかき消された。
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