『片足WaLtz』(2年目)
医師の話を聞く。アスヒの片足にはギブスと包帯が巻かれていた。
静かに医師の話を聞いていたアスヒは、話が終わったあと深く頭を下げ、渡された松葉杖を不器用に扱ってゆっくりと立ち上がった。
ありがとうございますと言って扉を出たアスヒの喉はカラカラに乾いていた。
(…もう、片足は動かないでしょう。か)
下された医師の言葉に、上等だといきがりたいところだが、実際そんな余裕はない。彼女から重い溜息が溢れた。
漫画の世界に来て松葉杖での生活を送るとは思っていなかったアスヒは、これからどうやって仕事をしていこうと考える。
前よりは効率が落ちてはしまうだろうが、働けないことはない。どこにも行くあてがないアスヒはここから出て行くという考えを思い浮かべたくなくて、ゆっくりと首を振る。
その為にはメイド長と話をしなくては、と彼女は松葉杖をつきながら歩きだした。
そして長い廊下をゆっくりと歩いていた時、目の前から現れたクロコダイルにアスヒは一瞬顔を顰めた。
助けてもらって礼を言わなくてはいけないことはわかっていたのだが、今のこの、松葉杖なしでは歩けない自分の姿を見られたくはなかった。
出来ればもう少し、アスヒの気持ちが落ち着いてから会いたかった。
「足が動かねぇって?」
だが、クロコダイルは容赦なくアスヒが隠せるものならば隠したいと思うそれを聞き出す。
アスヒは主君に深く頭を下げながら、嘘をつくことなど出来ずに正直に答えた。
「…はい。医者からはもう片足は動かないだろうと」
言葉を聞いて、クロコダイルがうろたえるような様子は一切見せなかった。
彼は興味を無くしたとでも言わんばかりに、再び廊下を歩き出し、アスヒとすれ違う瞬間、言葉を投げかけた。
「使えねぇ奴はいらねぇ」
事実上の解雇の言葉に、アスヒは苦笑を浮かべる。
(…ですよね)
いくらメイド長に相談しようが、雇い主であるクロコダイルがいらないといえば、アスヒはいらない存在となる。
「あーあ、私にこれからどうしろって言うんだ」
思わず零した言葉に答えるものは誰もなく、アスヒは長い廊下に1人残された。
(片足WaLtz)