2
「翠徠」
はっと深く眠ったような意識を浮かせて声をかけた彼に目を向ける。
思いの外ぼぉっとしていたようで、彼――リボーンにニッと口の端をあげられ、皮肉げに笑われた。
私としたことが、と少し後悔しつつ、今となっては嫌な思い出でしかないその記憶に不快感を感じながら預けていた背を壁から離した。
「どうした、お前がそんな表情するなんてらしくねぇな」
「別に。何もないわ」
「本当か?」
するり、と私の腰にリボーンの腕が絡まり、私の体を引き寄せて体を密着させる。
リボーンの熱っぽさを帯びた視線が私に向かい、つぅっと頬をなで上げた。
そしてゆっくり唇を私の耳元に寄せて甘ったるい声で愛を囁く。
「オレといるのはつまんねぇか?」
「そんなことない」
「なら、オレだけを見ろ」
頬に添えられた手が顎をすくい上げ、リボーンが私の唇を奪う。
んっ、という声があがるのはいつものこと。
何度も角度を変えて口付けてくるリボーンに私は抵抗しない。
だんだん物足りなくなってきたのか、リボーンの舌が口内を荒し始めた。
吸ったり、舐めたり、絡ませたり。
キスの上手いリボーンに翻弄されるばかり。
それでも私は愛なんて囁かない。
(囁く必要なんて、ないから)(まだ、気づきたくないから)
ちゅっ、というリップ音と共に唇が離れ、彼との間に銀の糸が引く。
ぷつり、と切れたその糸を何気なく見ているとリボーンの真摯な目が私を捉えた。
「任務に行くぞ」
「了解」
仕事の前の挨拶。
それがこのやりとり。
さきほどまでキスしていた仲とは思えないほど殺伐とした空気が流れる。
これでいい。
私達は一流の―――ヒットマンなのだから。
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